05.むかしのはなし
子どもの泣き声がする。
ここはどこだろう? と思い、あたりを見渡すと、昔通っていた幼稚園である事に気付く。これは夢だ。この幼稚園は数年前に取り壊されてしまって、もうすでに存在していないのだから。
「ほたる~タケちゃんがぶったあ……」
少女が涙と鼻水塗れの顔でぐしゃぐしゃにしながら私に泣きついてきた。もはや手馴れたもので、私はよしよし、と泣きすがる子をあやす。そうそう。こんな感じでしょっちゅう助けを求められてたっけ……。
「悪口いったのそっちだもん!」
私は弾かれたかのように顔を上げた。目の前には、ごく控えめに言ってぽっちゃりとした体型の少女が涙ぐみながら立っていた。この子は……タケちゃんだ!
当時ジャイアンと呼ばれ、ちびっこたちから恐れられていたタケちゃん。少々乱暴なところはあったけれど根は優しくて素直。無闇に暴力を振るうような子じゃなかったのに、いったいどんな悪口を言われたのだろう。
「悪口って、どんな?」
私はゆっくりと、穏やかに尋ねた。
タケちゃんはふくよかな身体を震わせながら、か細い声で答えた。
「おかあさんとぜんぜん似てないって。ほんとうのおかあさんなの? って、みんないうの」
タケちゃんのお母さんは白くて、華奢で、儚げな人。雰囲気こそ対照的すぎて、似てないように感じるかもしれないが、よくよく見れば、親子だってわかる。タケちゃんのきらきらと輝くつぶらな瞳は、紛れもなくお母さん譲りなのだ。
「タケちゃんのおかあさんすごくおっとりしてるでしょう。タケちゃん、いつも目を吊り上げてるから、みんな気づかないだけだよ。笑えばそっくりなのにね。あと、なまえ! おかあさんとお揃いの、お花の名前なんだよね?」
わたしなんか、虫の名前だよ! いいなあと勇気づける。
するとふにゃりと安心しきった顔でタケちゃんは微笑んだ。
「うん。おかあさんがさくらで、わたしがゆり」
お気に入りなの。と少女ははにかんだ。
ゆり。
そう、彼女は竹澤さゆり。さゆりって、もしや。
なんということでしょう。小さな暴君だった彼女が今では……って、ええぇっ!?
あんなにジャイアニズムを発揮していた少女が今では誰もが振り返る美少女に……。ひぃい信じられない。もしや整形……いやいや、彼女はもとが良かった。だってお母さん超美人だし。
姓は現在香坂と名乗っているが、諸事情で変わってしまったのだろう。
何はともあれ、私は夢の中で幼馴染の存在を思い出したのである。
そんなわけで現在、朝五時二十分。
とんでもない夢のおかげで目覚めは衝撃的。これじゃあ二度寝しようにも無理に決まっている。




