02.はじめての戦闘
眩い光に包まれ景色が移り変わる。
転送中にこの世界についての簡単な説明を受けたが、どうもすんなり頭に入ってこない。
『あなたは冒険者。惑星スフィアの内側、数多の種族が共存する大地アンジェリカを舞台に、様々な試練があなたを待ち受けていることでしょう』
おう、頑張るよ……。そう思って周りを見渡すと、ファンタジーな街並みが視界いっぱいに広がっていた。
始まりの国はバレスティ。内陸に位置し、自然が豊かで高い山々に囲まれた美しい国だ。なんでも酪農が盛んらしい。
たくさんの人が行き交う中、私は広場でぽつんと一人佇んでいた。
そうだ、始まりの国がわかったら香坂さゆりに連絡しなくてはいけないんだった。ヘッドセットをずらし、スマートフォンを手に取る。素っ気ないともとれるような簡素なメールを送り、再びアンジェリカへと戻った。
それにしても流石ゲームである。カラフルな頭、コスプレのような衣装。現実離れしているにも程がある。
私の格好といえば質素なチュニックに薄手のボトムス、膝下の長さのロングブーツだ。腰には細身の剣が下げられている。一目で駆け出しだとわかる姿だった。
「ねぇ。もしかして、あなた」
後ろから声をかけられた。
「はい?」
振り向くとそこにはボリュームのあるハニーブロンドの髪をした美少女が立っていた。魔法使い風の衣装を纏っている。この世界に知人は一人しかいない。もしや? と思い小さな声で「香坂さんなの?」と聞いてみた。
「しーーっ」
彼女は私の口を塞ぎ「こっちではリリィっていうの。リアルの名前は秘密ね」と注意した。
「ごめん」
うっかりしていた。ここには不特定多数の顔も知らない人間がいるのだ。
「カノン君って呼んでもいい?」
私は頷いた。そう、私の今の姿は青年なのである。
「まさかイケメンになっているとは思わなかったわ」
似合うけどね、と彼女は笑った。
「そういえば、冒険者ギルドにいかないといけないらしいのだけど、こう……じゃなかった。リリィ、場所わかる?」
「もっちろん。案内するわね」
気前のよい返事が返ってきた。リリィに導かれるまま冒険者ギルドに向かうと、たくさんの人に声をかけられた。主に、リリィに対してだけど。
「よっ、リリィ。その若葉マーク誰だよ」
「友達よ。私が誘ったの」
「もしかしてリア友か? かーっ、このリア充め」
「いいでしょ~。しかも中身もイケメンなんだから」
私はそんな会話をよそに、受付のお姉さんに話をかける。
「新人さんですね。あなたを冒険者として登録します。よろしいですか」
「はい」
『カノン=アンデルセン
クラス剣士 LV.1
HP400 MP120』
「登録が完了しました。現在、受注できる依頼はこちらです」
ゴブリンの駆除と落とし物探索、忘れ物のお届け……の三つである。駆け出し冒険者が受注できる簡単な依頼だった。
とりあえず全部受注しておこう。
「リリィ。手始めにゴブリンの駆除をしたい」
「うん。まずは敵と戦って経験値貯めつつ、戦闘に慣れないとだね」
香坂さゆりことリリィは私をじっと見つめた。
「いまのところ初期装備で大丈夫、だけどレベル上がったら盾をプレゼントするね。カノン君、剣士だから盾を装備することが出来るのよ。ソロでもある程度楽に戦えるようになるわよ」
彼女には何から何までお世話になっている。なんだか申し訳ない気もするが、好意は素直に受け止めた。
「ありがとう。でも無理しないでね」
「ううん、好きでやってることだから。それにカノン君が強くなったら手伝ってもらいたいことがたくさんあるの。覚悟してね!」
くすりと私は笑う。そうなれば力になれるよう頑張らねばなるまい。
ともあれまずは戦闘に慣れなくては。いつもリリィが助けてくれるとは限らないのだ。そう心に決めると私は次の地へ向かった。
街を離れ広大なフィールドへ出るとモンスターがちらほらと顔を出す。
確か、ゴブリンといったか。駆除するモンスターはどこだろう?
「受注したクエストの討伐対象モンスターは区別がつくよう印がついているはずよ。まずはカノン君、パーティを組みましょう。私の本業はヒーラー、つまり回復役ね。カノン君は前衛だから被弾率が高いの。私が介護してあげる」
私は頷く。
『リリィ=ベルからパーティの申請がきました。受理しますか?』
迷わずイエス、と選択する。
パーティが結成されましたとアナウンスが流れると同時にリリィの詳細な情報が見ることが出来た。私はぎょっとした。
『リリィ=ベル LV.89
職業 プリースト
HP6600 MP8920』
「うん……詳しくないけど、リリィが強いってことだけはわかったような」
「ん? そうでもないよ。レベルキャップは100だし、私まだカンストしてないもの。廃人には程遠いわよ」
「ふうん」
初心者の私としては未知の世界だ。彼女はいたって普通に答えるので、そうなのか、へえ~と納得しそうになったが、廃人という言葉に少し引っかかりを感じた。言葉から察するに想像を絶するとんでもない人の事をいうのだろう。
「あ、いた」
頭上に赤い印の付いたモンスターが数メートル先にいた。
某魔法学校シリーズに出ていたような小柄な子鬼である。目がくりっとしてモンスターというにはちょっと可愛げがある風貌であった。
「基本をまず教えるね。パーティを組むにあたっての役目の分担。まず、盾役。主に前衛で剣士のカノン君が担当します。敵を引きつけて味方を守るのが主な役目。次に、回復役。後衛である聖職者やプリーストがパーティのHPの管理をします。今回は私が担当するわ。そして最後に攻撃役。例に上げると弓術士とか魔術師、盗賊などなど。火力が高ければ高いほど戦闘が短く済み、カノン君や私の負担が軽くなるわ。とまあ……言葉で伝えるより、実践で学んだ方が一番わかりやすいと思うけど」
「わかった」
私は頷く。リリィは杖を構え呪文を唱える。
「バリア展開。戦闘を開始するわ、ファーストアタックはカノン君がとってね」
剣を抜く。とてもリアルだがこれはバーチャルだ。恐れるに足らない。
ここは思い切りが大事である。私は大胆にも突っ込んだ。
「やあっ」
細身の剣がゴブリンの肩を衝く。ぎぎぃと耳にきんとくるうめき声を上げたのち私を睨みつけたゴブリンは鋭い爪を振りかざす。私は寸前のところで攻撃をかわした。間合いを詰め、にじり寄る。タックルをかまし、ゴブリンが怯んだ隙をついて心臓を思いっきり貫いた。耳をつんざくような悲鳴がなかなかリアルで思わず退きそうになったが、カウンターがくるかもしれない、と考えると油断は出来ない。よりいっそう柄の握る手に力が籠る。
私の心配とは裏腹にあっけなくゴブリンは消滅した。
ほうっと息をつく。
「なあんだ。カノン君ゲーム慣れしてないと思ってたけど意外にやるじゃない。私のフォローいらないかんじね」
「いや、これはまだ序盤でしょう? あとあと難しくなるって書いてあったけど」
スタートブックにはこの先に待っているダンジョン? とやらの攻略のポイントがずらりと書いてあったのだ。ギミックがどうの、タイミングがどうのって。まだ自分には早いと思い、さらっとしか目を通してはいないけれども。
「うん。私ね、もしカノン君さえよければ一緒にそのダンジョンに行きたいの。レベル上げ手伝うから、ね。よく知った友達とパーティ組めたらなあって思っていたの」
「そうなのか」
「そうなの」
リリィは頷いた。
「あと残り九体だよね? この調子でさっくりやっつけちゃおうよ」
「うん」
剣を構える。たかがゲーム、されどゲーム。だが人に期待されるのは悪くないなあって思う。むしろ嬉しいくらいである。
「いざ」
私は地を蹴った。頬を撫でる風は心地よく、不思議と体は軽かった。




