13.あなたの騎士
ギルドに所属して一カ月が経った。
私とジーンはメインストーリーを着々と進めたり、レベル上げに精を出していた。そして、先輩方のアドバイスを受けるようになってから、プレイヤースキルがついてきたように思える。
ほんの少し前まではアタッカー陣の火力に負け(特にアンナの)標的をちらほら飛ばしていた私だが、ちょっとやそっとじゃ標的を剥がされないようになった。最初こそヘイト管理をしている私の精神をごりごりと削るアタッカー陣を恨めしく思ったものだが、きちんと誘導を行い、標的を維持し、防御スキルを的確なタイミングで回してさえいれば戦闘はあっというまに終わってしまうので今では非常に助かっている。慣れとは恐ろしい。
ジーンはめちゃくちゃだったスキル回しをフィオさんとアンナに指摘され、日々改良を重ね最適化を図っているようだ。おかげで火力面は以前と比べ安定しているし、申し分ない。ただ、火力を求めるあまり敵の攻撃を避けない、ギミックの処理を怠るなど、ヒーラー側に負担を掛けているのも事実である。その度にテディさんのセクハラの餌食になっているが、自業自得だと私は思う。
「晴れてレベル40になったところで……君たち二次職業に転職出来るんだけど何にするか決めたかい? 特にカノン君」
フィオさんから投げかけられた質問に私は一瞬喉を詰まらせた。
ジーンは竜騎士一つに絞られているのだが、剣士である私は白騎士、黒騎士と選択肢があるのだ。
白騎士は光魔法や回復魔法に長けた所謂補助が出来る盾である。かたや黒騎士は闇魔法や攻撃魔法が使える火力重視の盾といったところか。
「正直悩んでます。火力はアタッカー陣のおかげで十分足りてるようだし、ヒーラーの負担を減らすという意味では白騎士は魅力的かと思いますけど……」
「黒騎士いいんじゃねえの? 魔法派手だし、かっこいいじゃんよ」
盾って目立たねえしいいじゃん、とジーンは付け足す。
「あんたが無駄に被弾しなければ迷うことなく黒騎士選ぶんだが?」
「俺のせいかよ。火力出してんだから大目に見ろよな」
悪びれもせずにジーンはのたまう。
「まあまあ。それぞれ一長一短あるんだし、ゆっくり決めるといいよ。それにしても早いものだね。もう少しで二人とも古代アンジェリカの塔へ行けるんだなあ」
フィオさんが私を宥めながら、楽しみだねえ、と言った。
「塔?」
ジーンと私は顔を見合わせた。私たちの疑問にフィオさんは答える。
「そう。一通りメインクエストを終えたら、古代アンジェリカの塔に登れるようになるんだ。他にもいろいろなコンテンツがあるんだけれど、古代アンジェリカの塔は他とは違い、軒並み難易度が高めに設定されているところでね。難易度が高い分、レアな装備やアイテムが手に入る。多くのユーザーがこの塔の攻略を目標にしているんじゃないかな。中でも先行組は最上階の世界最速踏破を目指してるんだけれど」
「急に大それた話になってきたけど、俺たちなんかがすぐ行けるとこなのか? フィオさんはカンストしてっけど、俺らレベル40になったばかりだぜ?」
ジーンの言葉に私は頷く。フィオさんは「ああ、大丈夫だよ」と話を続けた。
「古代アンジェリカの塔には推奨レベル、必要装備レベルが設定されているんだ。最下層はレベル50からだよ。つまり、君たちはメインクエストを終えれば必然と行けるようになる。まあ、ある程度装備は整えておかなきゃいけないんだけどね」
フィオさんの話を聞いて私はまだ見ぬ新境地に心を躍らせた。
また、みんなと協力し合い冒険が出来るのかと思うとわくわくが止まらない。自分の未熟さにやきもきすることはあっても、みんなと攻略した時の達成感を考えるときっと、楽しいはずだ。自然とやる気が出てきた。
「ジーン、頑張ってレベル上げするぞ。あとメインクエスト進めよう」
「お。カノンもやる気出てきたっぽい? じゃあ俺、さくっと転職してくるわ。それからでいいならレベル上げ付き合ってやるよ」
頼むぞ、と言って私はジーンの肩を叩いた。ジーンはいつものように不敵ににやりと笑い「高くつくぜぇ?」と減らず口を叩いて転移した。消えた彼の背中を見送りながら私はいそいそと旅支度を始める。
冒険者ギルドに張り出されていた討伐対象のモンスターを狩ろう。経験値とお金の両方がもらえるし一石二鳥だ。
「それではフィオさん。私も行ってきます」
「ああ。いってらっしゃい、気を付けて」
私は踵を返し、ドアノブに手を掛けた。ふとフィオさんが「そういえば」と思い出したかのように声をかけてくる。
「知ってるかい? 君の友人リリィは以前、先行組の中でも有名なチームの一員だったんだ。『ワールド・エンド』というギルドで……彼女、そこのメインヒーラーだったんだよ。塔の攻略にものすごく意欲的なチームだから僕よりかは彼女のほうが詳しいし、良いアドバイスが聞けるかもしれない」
何気なさを装った彼の言葉にどこか挑戦的で意図的めいたものが含まれているような気がした。少なくとも私にはそう感じ取れたし、探りを入れられているような気持ちになって少し気分が悪くなる。
「フィオさんはわかってて言っているんでしょう? いじわるな人だ」
「僕は君に意地悪したいわけでも、リリィを困らせるつもりはないんだけれどね……。ちょっとここ最近目に余ることがあってさ」
「目に余ること?」
私は問うた。
「いや、君たちじゃない。気にしないで……と言いたいところだけれど、ただ何かあった時のために前情報があったほうがいいかなあって。ただ漠然と思うことで、杞憂に終わってくれるにこしたことないんだけどね。最近、『ワールド・エンド』関係で良い噂を聞かないからさ」
ふうん、と私は言う。
「よくわからないけれど、私はリリィの過去を掘り返そうという気持ちは一切おきないし、これからもそうするつもりです。フィオさんの気遣いには感謝します」
私は捲し立てるようにそう告げた。我ながら大人気ないなあ、と思う反面、彼の発言の煮え切らなさについつい食ってかかってしまったのだ。
しかし、私とてリリィとて小さな子どもではないのだ。暴君で泣き虫だった彼女と、そんな彼女を中心として出来る屍を介抱する私。とうの昔のことだ。必要な時に必要な言葉を、行動を示すことが出来る。もう、あの頃とは違う、大人なのだから。
「すみません。ちょっとむきになってしまった」
くすくすとフィオさんは笑う。
「ふふ。君は歳のわりにしっかりしてるから安心だよ。それにすごくいい子だしさ。ここにいると、他人の心の痛みがわからなくなるんだ。鈍くなるというか……。とにかく、君は変わらないでいて」
私は狐につままれたような顔をしていたと思う。それくらい、フィオさんの言っていることは唐突で不可思議だったのだ。
「私は、いい子でもないし、そんなにしっかりしているわけでもない。買被りすぎでは」
「素直じゃないなあ」とフィオさんが言う。
「だけど、君はリリィが困っていたら助けるし、きっと無意識に問題の渦中に飛び込んじゃうんだろう?」
予言めいた台詞を吐くフィオさんに、私は思わずため息を漏らす。
「慣れてます。何せ幼馴染ですから」
「そっか、幼馴染だものね」
フィオさんは納得したふうに頷いた。
「なるほど。こんなにかわいい騎士が幼馴染だなんて、彼女は幸せものだな」
私は呆れた。
「私はまだ剣士で、騎士ではないです」
それに、まだ白騎士にするか黒騎士にするかで迷っているのだ。
そんな私をよそにフィオさんはぷぷっと噴き出す。灰褐色の双眸に、うっすらと涙を浮かべて。
「君には敵わないや。ほんとう、頼もしいったらないよ」




