第四十三話 調達
それから数日が過ぎた。
安田と木島は定期的に倉庫を離れ、物資を調達してくる。
食料。衣類。医薬品。
どれも少量ずつだったが、何も無い状態から比べれば十分な成果だった。
倉庫の空気も変わりつつあった。
食料がある。それだけで人間は安心する。
もちろん問題が解決した訳ではない。
監視ドローンは相変わらず空を飛び回り、政府の捜索も続いている。
それでも。
少なくとも明日食べる物がある。
その事実が灯火という組織とって十分な成果だった。
もっとも。
調達は決して楽な仕事ではない。
路地裏に隠れながらやり過ごしたこともある。
あと数秒遅ければ回収されていた。そんな場面も何度かあった。
それでも二人は帰還し、職務を果たした。
やがて有志が増えていき調達班は10人体制となった。
安田が、ひとつ気掛かりだったのは、
最近頻繁に十六管理街区からの目覚め人が流入してくることだった。
木島が所属していた目覚め人の組織、「残響」が壊滅したのに。何故だろうか。
だが、理由など安田にはどうでもいい。助けを求める人がいるなら手を差し伸べるだけだ。
その日も。
二人は十七管理街区の路地裏を歩いていた。
日差しが強く、アスファルトが陽炎を揺らしている。
安田はリュックを担ぎ直した。
「今日は当たりだったな。」
「ですね。」
木島が笑う。
帰れば皆喜ぶだろう。これでまた数日間はもつ。
そう思った時だった。
前方の歩道で。
一人の女がふらついているのが見えた。
長い髪。やせ細った体。服も汚れている。
どこか様子が変だ。
2人は足を止め、様子を伺う。、
やがて木島が口を開いた。
「……ちゃん…?」
「……え?」
安田が振り返る。
「どうした。」
木島は答えない。
女を見つめたまま立ち尽くしていた。
やがて女が顔を上げ、2人と目があった。
その瞬間。
木島の顔色が変わった。
「姉ちゃん‼︎」
木島は荷物を放り出し駆け出した。
「姉ちゃん!!」
女の肩が大きく震える。
木島はその前で立ち止まった。
息を切らしながら笑う。
「生きてたのかよ……!
探したんだぞ!みんな心配して――」
言葉が止まる。
女の様子がおかしかった。
顔は青く、呼吸が浅い。
微かに怯えているような表情。
おおよそ、弟に向ける視線では無い
「姉ちゃん?」
女の唇が震える。
木島の服を掴んだが、力は弱かった。
「助けて…。」
「……え?」
女は震える声でもう一度言った。
「お願い、助けて。」
安田は胸騒ぎがした。
これは再会じゃない、何かが起きている。
女は周囲を何度も警戒する。
「見つかる前に……時間がないの」
木島の表情が消えた。
青く染まった真夏の空の下
蝉の鳴き声だけが響いていた。




