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第四十二話 作戦

第二区庁職員宿舎


その一室で、藤崎は暮らしている。


深夜。


シャワーの音が響く。

熱い湯が肩を流れる。

藤崎は壁に手をついていた。


もう、何も考えたくなかった。


今日のことも。自分が下した判断も。

何もかも。ただ、ただ疲れていた。


静かに目を閉じる。


熱い湯が顔を流れた。


その時できる、最善の判断をした。

そう自分に言い聞かせる。


しばらくそうしていたが、やがて

頬を何かが伝った。


藤崎はゆっくりと目を開く。

泣いていた。


なぜなのかは、分からない。


後悔か。安堵か。罪悪感か。


それとも別の何かなのか。

自分自身にも分からなかった。


排水溝を見つめる。

透明な雫は。

シャワーが全てかき消した。


ーーーーーーーーーーーーーーー



ジリジリと照りつける夏の午後。

蒸し暑い工業倉庫に、安田の声が響く


「食料はあと一週間ほどしかもたない。

その後は調達が必要だ。みんな、何かいい案はないか」


「調達は厳しそう。私達が逃げてから、街の警戒は強くなってる。」


「正直危険……。EARを発動されると、特にね。」


小宮が答えた。

その声で数人が顔を上げる。


倉庫内がざわつき始めた。


「どうすんだ。この先」


「ずっとここにはいられないわよ」


「お前が行ってこいよ。陸上やってたんだろ?」


「やだよ。捕まりたくねえし」


安田は深いため息を吐いた。


「わかった。俺がなんとかする。少し時間をくれ」


雑居ビルから避難して二日。

灯火は数km先にある工業倉庫へ身を隠していた。


疲労。不安。緊張。

その全てが入り混じった空気だった。


その日の夜。


幹部会議が開かれる。


最初に口を開いたのは安田だった。


「マジでどうする。倉庫は改装済みだったが、とにかく食料がない。正直もうもたないぞ。思考波妨害装置の非常電源も、もう直ぐ切れる。」


「だから、どうしようもないって」


小宮の言葉に皆顔を伏せる。


数秒の沈黙。


その後、安田は言った。


「拠点移動しかない。ここにいたってどうしようもないだろ。またいつ掃除屋が来るかわからない。」


安田の言葉に榊は目を丸くした。


「安田。お前まだ気づかないのか。掃除屋は来ない。」


「あの時、藤崎は俺たちを逃したんだ。」


榊が続ける。


「それに、彼らが本気を出していれば、もうとっくに見つかって全員消されている。」


あいが言う。


「あの時。藤崎さんは手の甲をさすってた。」


「あまりよく覚えてないけど。何かをごまかす時、よくそうしてた。」


あいが困ったような顔で笑う。


「あの人、嘘が上手じゃないから。」


榊が壁にもたれながら短く言った。


「そういうことだ。」


「でも、回収班を呼んだじゃねえか。俺らを根こそぎ回収させるつもりだったんだろ」


「ハハッ。団体の代表者がここまで察しが悪いとは、先が思いやられる」


佐伯教授が鼻で笑う


「どういうことだ、教授」


「あのなぁ…安田。あれは建前だ。

あの場面、No.0としてはそうするしかないだろ。

あの時に藤崎が出来た最大限の時間稼ぎだ。」


教授のかわりに榊が答える。


「…そういう…ことかよ。」


倉庫が静まり返る。


結局のところ、藤崎の目的は何なのか。

なぜ、今政府側に立っているのか。

誰もわからなかった。


だが、今はそんなことを考えている余裕はない。

食料がない、それが喫緊の問題だ。


安田は頭を掻く。


「で、結局どうする。」


安田は続けた。


「このまま何もしなけりゃ一週間後にはメシがなくなる。政府に捕まる前に餓死するぞ。」


小宮がため息を吐く。


「外を見たことある?通常時の2倍、いや3倍は監視ドローンが飛び回ってる。とにかく今はーーー」


安田は立ち上がった。


「なら俺が調達してくる。」


空気が止まる。


「危険なんて知るか。何もしなきゃここで死ぬんだ

全滅ルートよりかは遥かにマシだ。」


「誰も行かないなら俺が行く。」


その時だった。


「俺も行きます!」


倉庫の後方から声が上がる。


全員が振り向く。


十六街区から逃げてきた男だった。


安田が眉をひそめる。


「お前は残れ。もう危険な目に遭いたくないだろ。」


男は首を横に振った。


「嫌です。助けてもらった恩があります。」


安田は思わず苦笑する。


「命知らずってのはこのことだな。」


男も少しだけ笑った。


「死にませんよ、多分。」


「多分じゃダメだろ。」


久しぶりに倉庫の中で笑いが起きた。

ほんの少しだけ、重苦しい空気が和らいだ。


安田は諦めたように肩をすくめた。


「好きにしろ。取り敢えずまだ名前聞いてなかったな」


「翔太です。」


「普通苗字だろ。」


倉庫中に笑い声が巻き起こる


「あっ、すみません木島です。よろしくどうぞ」


男は深く頭を下げる。


「よし、じゃあ木島でいいな」


「いや、出来れば翔ーーーーー」


「よろしくな。木島」


こうして、調達係が決まった。


安田。そして木島


わずか二人だが、その2人の名は後に


十六管理街区へ大きく広まることになる。

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