第三十八話 再開
一瞬の出来事だった。気づけば粛清は終わっていた。
広場は静寂に包まれる。
血の匂い。煙。そして無数の死体。
特執局の局員達は作業を続ける。
死体とリストを照らし合わせる。記録作成。
黙々と彼らは仕事をこなしていった
高木がタブレットを見ながら歩いてくる。
「えぇっと」
軽い口調だった。
「死体の適合確認完了 564名」
口元が僅かに緩む。
「揃いも揃ってバッチリです。局長。
はぁー、間違えて殺っちゃったらどうしようかと…。」
藤崎は広場を見渡した。
無数の死体。そして立ち尽くす住人。
泣き喚く者。震えが止まらない者。全てを見た。
そして。
「そうか、その時はお前の首が飛ぶまでだ。」
それだけだった。
高木は肩を竦める。
「一発でここまで揃うとはね」
藤崎は静かに答える。
「幸先がいいな」
その言葉に広場がざわついた。
藤崎は前へ出る。
広場全体へ視線を向け、そして言った。
「聞け」
マイクも使わない。だが静まり返った広場によく響いた。
「俺は君達をこの街のノイズだとは思っていない」
住民達が息を呑む。
藤崎は続ける。
「だが」
そこで言葉を切る。足元に転がっている死体を見て言った。
「そう判断した時は」
「わかるな」
全員が一瞬で理解した。
藤崎は続ける。
「本日をもって第一街区への全優遇措置を終了する」
「他街区からの物資輸送および特別配給、給付金も停止する。」
ざわめきは大きくなる。
「今日から君達は他街区と同条件だ」
「自ら稼ぎ生きろ。不正を働こうとするな。それが平等だ」
風が吹いた。誰も反論できなかった。
藤崎は踵を返す。
「帰るぞ」
高木が笑う。
「了解、局長」
特執局は広場を後にした。
残されたのは無数の死体と。
初めて平等になった街だった。
⸻
翌日。
第一管理街区は異様な静けさに包まれていた。
朝。
スピーカーから放送が流れる。
『第一管理街区住民に告ぐ』
『本日付で全ての優遇措置を終了する』
『物資輸送を停止、及び配給制度を終了する』
『各住民は政府より通達のあった労働に従事すること』
機械音声が街中へ響いた。
誰も文句を言えなかった。
昨日の光景が脳裏に焼き付いて離れなかった。
工場、倉庫、農業区画にも。
今まで働いたことのない人間達が戸惑いながら列を作っている。
ある老人が呟く。
「本当に全てが止まったな」
誰も返事をしない。
別の男が言う。
「脅しじゃなかった」
沈黙。
やがて若い女が小さく呟き空を仰ぐ。
「外の街も、こんななのかな。」
夕方。
第二地区庁。統治者室。
藤崎は窓の外を見ていた。
人々が帰路につく。工場から、倉庫から、畑から。
昨日までとは違う景色だった。
高木から通信が入る。
『革命ってやつですかね』
藤崎は答えない。
『いやぁ、恐怖政治ってのは即効性があるなぁ。』
『当然だろ』
高木は笑う。
『まぁ、でも。前よりマシになるんじゃないですか』
藤崎は街を見下ろす。
今日一日、勤勉に働いた人々を見ながら。
静かに呟いた。
「そうなるといいがな。」
通信の向こうで。
高木が少しだけ驚いたよう言った。
『珍しく弱気ですね』
藤崎は答えなかった。
窓の外では。
新しい街の一日が終わろうとしていた。




