第三十七話 彼岸
第一街区中央広場。
巨大なステージ。
集まった数千人の住民。
歓声。拍手。期待。
誰もが新組織の設立式だと思っていた。
その中央へ。一人の男が軽い足取りで現れる。
高木だった。
「どうもどうもー」
マイクを手に取る。
「本日はお忙しい中、お集まりいただき誠にありがとうございます」
どこから笑いが起きる。歓迎ムードだ。
明るい声援に包まれる。
「さて、堅苦しい話は後にして」
「せっかくなんで、本日の来賓の皆様に少しお話を伺ってみましょうか」
拍手。歓声。高木は笑顔を振り撒く。
「まずはこちら」
大型モニターに男の顔が映る。
田沢だった。
会場のあちこちから声が上がる。
街の有名人だった。上級国民だ。
高木は満面の笑みを浮かべる。
「いやぁ、本当に凄い方です。第二地区有数の実業家。皆さんもご存知ですよね?お金持ちだ!羨ましいなぁ。」
拍手。田沢も満更ではない。
高木が問いかける。
「成功の秘訣は何です?」
田沢は笑う。
「簡単ですよ。使える者は使う。時期を見て切り捨てる。人も、権利も。金も。使える時に使っとく。皆そうでしょう?」
田沢は続けた。
「結局ね、力を持つ者が勝つ。弱い奴は一生蹂躙される。それだけの話です」
拍手。
高木も頷く。
「なるほどなるほど、実に勉強になりますねぇ」
次。元政治家。
次。企業経営者。
次。投資家。
藤崎作成した、処理者リストの人物を高木は徹底的に持ち上げた。
褒める。煽てる。気持ちよくさせる。
だから皆。本音を喋った、弱者を馬鹿にした。
搾取を誇った、過去の悪行を武勇伝のように語った。
自分達が選ばれた側だと信じて疑わなかった。
そして高木は彼らを上列に、ステージに並べる。
来賓挨拶は小一時間続いた。
最後の質問が終わる。
高木は笑顔のまま振り返った。
ステージ後方。1人の男がいた。
黒いコートを羽織っている。
高木はマイクを向ける。
「ということですが」
「いかがです?局長?」
会場の視線が集まる。
藤崎はゆっくり歩き出す。
あたりは静寂に包まれる。足音だけが響いた。
マイクの前へ立つ。
数秒。
誰も喋らない。
そして。
藤崎は言った。
「そうだな」
処理対象者。そして
広場全体を見渡した。
「どうしようもないクズだな」
藤崎は続ける。
「他人を踏みにじることを誇り、弱者を嘲笑う
なるほど、よく分かった」
田沢の顔色が変わる。
「おい、何言って――」
藤崎は振り返った。
ステージ後方には9人の黒コート集団。
全国から集められた猛者達。
その全員を見渡す。
そして。静かに告げた。
「諸君。入局おめでとう
本日より特別執行局は正式に活動を開始する」
風が吹く。黒いコートがなびく。
「それでは諸君。早速だが
殲滅開始だ。」
その日、中央広場は真紅に染まった。




