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第三十六話 前夜

数時間後、高木専用のスマートフォンが届いた。


藤崎と同じ漆黒のスマートフォンだった。


高木は大きくため息を吐き、立ち上がった。


机の上の地図を丸める。


「ったく……」


頭を掻く。


「一ヶ月で全国回れって無茶苦茶だろ」


藤崎はノートパソコンから視線を上げない。


「できる」


「根拠は?」


「お前だからだ」


「その理論嫌いなんだよなぁ……」


高木はため息を吐く。


だが口元は少し笑っていた。


昔はこういう無茶振りをよくされた。懐かしかった。



高木は扉へ向かう。そして足を止めた。


振り返る。巨大な窓。机に向かう男。


No.0。


だが高木にとっては昔から知っている男だった。


「じゃあ行ってくる」


藤崎は頷く。それだけだった。


高木はニヤリと笑う。


「一人で大丈夫?」


返事なし。


「怖くない?」


無視。


「ちゃんと飯食えよ?」


藤崎の眉が動く。


「高木…」


「黙れ、行け」


高木は爆笑した。


「はははっ」


藤崎はようやく顔を上げる。


少しだけ呆れた顔だった。


「早く行け」


「へいへい」


高木は手を振る。


「じゃあな…。無理すんなよ、藤崎」


扉が閉まった。







その日から早速藤崎は動き始めた。


新統治者として過密なスケジュール合間を縫って。


藤崎は第一街区を歩いた。


時にはスーツ姿。時には作業着。


時には帽子を深く被り。


誰にも気付かれないように。


住人を観察した。


街のパン屋。工場。教師。医師。技術者。商人。


ほとんどの住人は問題ない。


給付金、供給物資。働かなくとも生活できる。


その権利がありながら、街への、人々への奉仕の心を持ち誠実に生きている。


彼らは残す。何も問題ない。


意思を持ちながら秩序を守っている。


同期の有無以外、他の街と実質的には変わらない。


だが、そうでない者もいる。


昼間から酒場に入り浸り、人を罵倒し、資産だけで生きている。


田沢。もちろん処理対象だ。


他にも、資源配給を不正に横流ししている者。

暴力事件を金で揉み消した者。

万引き常習犯。幼き子供から搾取する者。

育児放棄を行う者。恫喝をする者。詐欺を行う者。


丁寧に前歴を調べた。そして街頭調査をし、実態を確かめた。更生した者は除外している。

逆に、この世界になってから羽を伸ばしたクズもいた。


第一管理街区 処理対象564名

藤崎の想像より、社会のノイズは多かった。


-------------


数日後。


第一街区の至る所にポスターが張られる。


【特別執行局設立記念式典】

【統治者No.0挨拶】


街は大いに沸いた。統治者自ら主催する式典。


しかも新組織設立。お祭り騒ぎだ。


善人も。悪人も。興味本位の者も。


全員が話題にした。


そして。3週間過ぎた。


式典当日。


第一街区中央広場。豪華な装飾。


集まった大勢の住人。


そして。広場の裏手。


黒いコートを纏った九人が並んでいた。


各地区から集められた怪物達。


彼らを纏めるように高木が立っていた。


「いやぁ」


高木は広場を見渡す。


「エキシビジョンマッチにしては、観客多すぎねぇか?」


高木はニタニタ笑っていた

まるで、数分後の光景を想像しているように。

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