第三十三話 初仕事
第一管理街区にある第二地区庁。
それはバベルタワーからほど近い場所にあった。
その最上階。統治者室。
大きな窓からは第一街区が一望できる。
だが、藤崎は景色に興味を示さなかった。
机の上にノートパソコンを開き、何かを入力している。
向かいのソファに高木が座った。
「それで、何すりゃいいんだ?」
藤崎は頷いた。そしてとある資料を高木に送信した。
画面に表示された文字。
【特別執行局】
高木の眉が動く。
「特別執行局?なんだこれ」
「作った」
あまりにもあっさりした口調だった。
高木はスクロールを進める
組織概要。権限。活動内容。
そして、目的。
そこに書かれていた内容を見て。高木は思わず笑った。
「ずいぶん物騒だな」
藤崎は答える。
「そうかもな。だが必要だ。この世界にはノイズが多すぎる」
「ノイズ?」
「秩序を歪めるものだ」
藤崎は窓の外を見る。
「回収班では限界がある。平等とは、一定ということだ。イレギュラーは許されない。だから排除する」
統治者室が静まり返る。
やがて。高木は資料を閉じた。
「なるほど、ちと極端すぎるが、理にはかなってるな。」
「で?具体的に俺は何をすればいい」
藤崎は机の引き出しから地図を取り出した。
巨大な地図だ。
日本全土。第一から第九地区まで各管理街区まで詳細に書かれている。
「人を集めてこい」
高木は地図を見る。
「どんな奴だ」
藤崎は即答した。
「圧倒的に強い奴だ」
高木が吹き出す。
「雑な注文だな」
藤崎は気にしない。
「第一地区から第九地区まで、各地区一人」
「選りすぐりの者を連れてこい、方法は問わない」
「とにかく、お前が連れてこい。」
高木は背もたれにもたれた。
「九人か、俺とあんたを入れて十一人か」
高木は少し考える。
「いくつか質問させてくれ」
「まず、強いやつって言ったって、国民の大半は…」
高木は言葉に詰まる
「まぁ、言い方は悪いが知恵遅れみたいな連中だ。
まともに使えんのか?まさか、各地域の記憶保持者の中から探せとか言わねえよな。母数が違いすぎる」
藤崎は頷く
「その点は安心しろ。新しい特執局用の、いや、お前専用のスマートフォンを手配した。間も無く届く。」
「そいつは特別仕様でな。同期を強制解除する機能が備わっている。」
「へぇ、悪人を引いたら大惨事じゃねぇか」
「その点は重々留意しろ。もっとも、まともすぎる奴でもこの仕事は務まらんだろうがな。」
高木は続ける。
「じゃあ2つ目の疑問だ。何で、各地区1人ずつ。合計九人なんだ?」
「強いやつがいれば地区とか人数とか関係なく引き入れれば良いじゃねえか。」
藤崎は首を振る
「ダメだ、人数が多すぎても統率が取れない。
構成員は全員個性豊かな覚醒者だと思え。
10人前後が限界だ。それに」
藤崎は続ける。
「ゆくゆくは第二地区を出て出張する場面もあるだろう。それぞれ、地の利を活かした作戦を立てる必要がある。そういうことだ。」
「なるほどな。じゃあ最後だ」
「何で俺が自ら足を運ばなきゃいけないんだ?他のナンバーズに頼んで、1人づつ地区代表者を出してくれればそれで済むだろ。」
「ダメだ。組織が軌道に乗れば、お前に局長を任せる。
お前が指示を出し、背中を預ける連中だ。
自ら足を運び、責任持って選定しろ」
「は?てめえ途中で降りるつもりかよ。統治者だろ?最後まで責任持てよ。」
「『統治者』だからだ。片手間で務まるほど甘くない。お前も、回収班と街の代表が両立できないから俺に頼んだ。理解できるな。大人になれ、高木」
藤崎はフッと笑う
「だが安心しろ。必ず最後まで何らかの形で携わるつもりだ。」
高木は頭を抱えた。面倒だし、難しい仕事だ。
深くため息をつき、藤崎を睨みつける
「期限は?」
藤崎は答えた。
「一か月」
高木の顔が引きつる。
「短くない?無理じゃない?パワハラじゃない?」
「お前鬼か?」
「そうかもな」
真顔だった。
高木は再び頭を抱えた。
そして。
「あんた、その一ヶ月何してんだ?」
藤崎は頷く。
「そうだな。まずは新統治者として諸々の業務を行うだろう。あとはパーティーの参加者集めでもするとしよう」
「パーティー?なんだそりゃ」
「一ヶ月後、第一街管理区つまりここで、特執局の設立記念式を行う」
「へぇ、お気楽なもんだな。勝手にやってろよ」
「違う、よく聞け。表向きは式典だが、裏の目的がある」
高木は顔を上げる
「特執局の初仕事だ。この一街区のクズ供を根こそぎ招待してやろう。」
高木はニヤニヤ笑っている。
「後はわかるな。早く身支度を済ませろ」
藤崎は窓の外の人々を見る。
「楽しい式典になりそうだな。高木」
「はい、局長♪」




