第三十三話 きっかけ
代表者たちが退室していく。
誰もが落胆し。誰もが困惑していた。
第二地区の統治者。その座を手にしたのは。
街区代表ではない。
ほんの数か月前まで反乱分子だった男だった。
広大な空間に。藤崎だけが残る。
藤崎自身、なぜ自分が選ばれたのかわからなかった。
だが、この世界の歪さを修正するためなら、この権利を逃す手はない。
中央AIの気まぐれでも、何でも、理由はどうでも良かった。
中央AIアマテラス。
巨大な球体は静かに浮かんでいる。
政府職員も、高木も退室した。
誰もいない。
藤崎は黒いスマホを見つめた。
No.0。その数字の責任は重い。
やがて口を開いた。
「質問がある」
『発言を許可します』
機械音声が響く。
「統治者に与えられる権限を教えろ」
沈黙。
やがて無機質な声が返る。
『第二地区全行政権限』
『人事権』
『資源配分権』
『適性職変更権』
『公的機関指揮権』
『管理街区代表任命権』
『その他三百四十二項目』
藤崎は眉一つ動かさない。
「足りない」
空間が静まる。
『質問の意図を確認できません』
藤崎はアマテラスを見上げた。
「俺は見てきた」
静かな声だった。
「同期されて、管理されていた方がよっぽど幸せそうなやつはいる。」
あいの顔が浮かぶ。
「同期を逃れて、自由意思を持つ生活を求める者もいた。」
思い浮かべたのは、榊や安田の顔
「自分の意思決定権。思考を持つことを俺は否定出来ない。」
快楽殺人鬼の顔が浮かんだ。
「だが、それが人を傷つける理由にはならない」
搾取。差別。暴力。
前の世界の醜さ。
そして。
「見逃しても変わらない」
「回収しても、同期しても。他のやつが覚醒する。」
「何度でも繰り返す」
アマテラスは沈黙している。
藤崎は続けた。
「あんたは、平等な社会の実現が目的なんだろ。」
『その通りです』
「なら」
黒いスマホを握る。
「整理が必要だ」
初めて。藤崎の声に感情が混じった。
「俺はあんたの作った世界を否定できない。
それどころか、正しいと思い始めている。
その仕組みが、完全に整備されていればの話だがな」
「1人でも、国民に記憶保持者がいれば。そいつはこの世のノイズだ。
修正しても、修正しても、修正しても、覚醒する
これではいつまで経っても平等な社会は実現できないだろ?」
「秩序を壊す者、他者を踏みにじる者
そういった可能性を残したまま平等なんて実現できない」
沈黙。
「再同期調整なんて、悠長なことは言っていられない
この世のノイズは増えていく一方だ。
イレギュラーは、許してはいけない」
『提案内容を確認』
『継続してください』
「統治はする、責任も負う、恨まれてもいい」
「だが」
その目は真っ直ぐだった。
「この世界の歪さを整備する力が欲しい」
「回収じゃ、再同期じゃ足りない」
「必要なら」
一瞬だけ。安田たちの顔が脳裏をよぎる。
「排除する。その権限だ。」
巨大な空間が震える。
アマテラスの表面を光が走る。
『提案を解析中』
『統治モデル更新』
『第二地区専用権限生成』
『適性職を再計算します』
藤崎の黒いスマホが震えた。
画面が白く発し、適正職が書き換わる。
【適性職】
【掃討官】
その瞬間。第二地区全域へ。
新たな権限が発行された。
『特別執行権限付与』
『掃討組織設立を許可』
『銃火器の使用及び第二地区独自運用を承認』
『新政府直轄型組織。特別執行局を開設。局長、藤崎悠人。第二地区統括者兼任』
『有力者候補を検索。局員選定を開始しますか?』
「いや、悪いが断る。自分で探すよ。」
特別執行局。別名掃除屋。
その始まりだった。




