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第二十八話 安堵

一年前。


第二地区第十七管理街区。


中央管理棟・病室



藤崎は鈍い体の痛みで目覚めた。


白い天井、消毒液の臭い、機械の駆動音。


起き上がろうとした瞬間。全身を激痛が襲った。


「ぐっ……!」


骨が軋む。息が詰まる。


視線を落とす。


両手。両足。ベッドへ拘束されている。


「お、起きたか」


聞き覚えのある声。


隣の椅子に座っていた男が立ち上がる。高木だ。


「よう。よく眠れたか?」


妙に明るい。


「最悪の目覚めだな」


藤崎は睨みつける。


「……ここはどこだ」


「病室」


「見りゃ分かる」


高木は笑った。


「正確には第十七管理街区中央管理棟の病室」


「お前、骨折してんだぜ。大人しくしてろよ」


藤崎は再び身体を動かそうとする。


激痛。


「っ……」


「だから言っただろ」


高木は呆れたように肩をすくめた。


「いい歳して暴れ過ぎなんだよ」


「人手が足りねえってのに、お前が暴れたせいでこっちも数人病院送りになったんだ。ふざけんな。」


数秒の沈黙。


藤崎は天井を見る。そして聞いた。


「……あいつらは」


高木は分かっていた。


「あぁ…。連中か。」


藤崎の表情が僅かに動く。


「逃げ切ったらしいぞ」


「追った連中もいたが見失った」


その言葉に。藤崎は目を閉じた。


わずかに。本当にわずかに。


安堵した。


高木の口角が上がる。


「まぁ、居場所は見当つくけどな」


「ッ……!」


「安心しろよ。もう興味は薄れた。お前が大人しくするなら深追いしねぇよ。」



「さて」


高木は椅子を引く


「No.2からどこまで聞かされてた?」


藤崎は黙る。


「まぁいい、改めて説明してやる


高木は勝手に話し始めた。


病室の窓を指差す。


「まず、ここは日本だ」


「だが、お前の知ってる日本じゃない」


静かな声だった。


「根本から違う」


高木は端末を操作する。


壁面モニターが起動し、地図が写し出された。


巨大な壁。それに囲まれた区画が何層にも連なっている


「現在の日本は九つのエリアに分かれている」


高木が説明する。


「そして各エリアはさらに二十前後の管理街区へ分割」


「街と街の間には巨大な壁があり、自由な移動は禁止」


「街のすべては政府の管理下だ、ここまではわかるな。」


藤崎は黙って聞いていた。


高木は続ける。


「そして九つのエリアには、それぞれナンバーズと呼ばれる統治者がいる」


画面に数字が並ぶ。


No.1


No.2


No.3



No.9



「各地区を統治する九人だ、この世界の支配者みたいなもんだな」


「だが、お前も知っての通り、No.2は逃亡中」


「だから今の第二地区は空席状態だ。リーダーがいない」


「各管理街区の代表者が集まって何とか回してる」


高木は笑った。


「面白いだろ。No.0なんて存在しないのに、噂だけ流してな。」


「そうやって、何とか秩序を保ってる」


高木はモニターを消した。


「ちなみに、俺は回収班の班長として政府に選ばれた訳だが、今は十七管理街区の代表もやってる。人手不足なんでな」


苦笑する。


「偉くなったもんだろ」


そして。少しだけ真面目な顔になる。


「この国は誰が運営してると思う?」


高木は窓の外を見た。


「中央AIアマテラス」


その名前が病室に響く。


「そしてナンバーズ、実質その二つだ」


「新政府と謳ってはいるが。案外単純なもんだ。」


再び沈黙。


高木は立ち上がり、ベッドに拘束された藤崎を見下ろす。


「で、本題。さっきも言った通り。圧倒的に人手が足りない。どこかの誰かのせいで欠員も出たしな。」


高木は続ける。


「昔から思ってた。お前は案外要領が良い

頭も回るし、判断も早い」


高木は肩をすくめた。


「まぁ、つまりだな。」


「俺も代表者の仕事が忙しくなってきてな、回収班の現場の面倒を見切れねえんだ。」


「俺の代わりのまとめ役が必要だ。お前なら使える」


どこか見下したような口調だった。


「とりあえず、俺の代わりに回収班の班長をやれ」


藤崎は数秒黙っていた。そして。

呆れたように言った。


「断る」


高木は吹き出した。


「だと思った。だけどなお前に拒否権なんかねぇんだよ。」


高木は藤崎の手首を指差す。


拘束具の隙間から金属製のリングが見えた。


「逃げようとしても無駄だ。この施設はパスがないと出入りできないし、その手首の発信機で、どこにいても場所が分かる」


高木はニヤニヤ笑っている。


「それと、連中の身を案じるなら、俺の言うことを聞いたほうが懸命だ。」


病室の空気が冷える。藤崎の視線が鋭くなる。


高木は鼻で笑った。


「安心しろ、からかってるだけだ。

さっきも言ったがお前が従順に働くなら手は出さねえ。わざわざ手間を増やしたくないからな」



「それに今のお前じゃ、どうせ何もできない」



藤崎は黙ったまま高木を睨み続けた。


高木はその視線を受け流す。


「まずは働け。よろしくな、回収班班長さんよ。」


そう言って踵を返す。


病室の扉へ向かいながら、高木は振り返らずに言った。


「歓迎するぜ、藤崎」

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