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第二十七話 決断

掃除屋が去ってから数分後


灯火の拠点だった雑居ビルは慌ただしい空気に包まれていた。


「急げ!」


「持てる物だけ持て!食料を優先しろ!」


各階から目覚め人たちが降りてくる。


段ボール。保存食。医薬品。通信機器。毛布。発電機。


一年かけて集めた物資だが未練を抱いている暇はなかった。


榊は窓の外を確認しながら言った。


「とりあえず移動だ」


異論は無いように見えたが、一人だけ口を開く。


「でも、大人数で移動するのは危険です」


あいだった。


その場にいた全員が理解している。


ビルには数十人規模の目覚め人が生活している。


これだけの人数が移動すれば目立つ。


榊は頷く。


「分かってる」


「だが回収班が来る。外へ出て見つかっても同じことだ」


静かな声だった。


あいは黙る。


掃除屋は去ったが、回収班は来る。


拘束し、再同期する。


目覚め人にとって、それは死と同意義だ。


榊は周囲を見渡した。


「近くの第二拠点へ移動する」


「そこから先は状況を見て決める」


誰も反対しなかった。


そして、灯火は拠点を捨てた。


一年守り続けた場所を。


静かに街へ消えていった。








移動は慎重かつ迅速に行われた、


数グループに分け、別のルートで移動した。


狭い路地を使い、監視カメラは避ける。


灯火はこうして一年生き延びてきた経験がある。


道中、安田はずっと機嫌が悪かった。


「ふざけんなよ」


前を歩きながら吐き捨てる。


「何なんだよあいつ」


誰も答えない。


安田は続ける。


「No.0?掃討官?次会ったら殺す?」


固く拳を握る。


「ふざけんな、ふざけんなよ……」


その声に込められたのは怒りだけではない


裏切られたような、置いていかれたような。


そんな感情が混ざっていた。


榊もあいも黙って歩いていた。


しばらくして、榊が口を開く。


「どう思う」


誰に向けた言葉かは分かっていた。


あいだ。


あいは少し考える、そして言った。


「洗脳はされていません。藤崎さんは自分の意思で、あっち側にいます。」


安田が振り返る。


「なぜ分かる」


「目です、悲しい目をしていました。」


静かな声。


安田が歯を食いしばる。


「そんなわけ――」


「あります」


珍しくあいが遮った。


安田が黙る。


あいは続けた。


「私が呼び止めた時、拳が、体が震えてました。」


誰も何も言えない。


会議室を出る直前。


「藤崎さん」


そう呼ばれた瞬間。


藤崎の足は止まり、背中から微かな哀愁を感じた。


あいは前を向いたまま言う。


「目を見ればわかるんです」


「まるで」


あいは小さく呟いた。


「もう後には引けないって、そう言ってるみたいでした」


誰も、何も言えなかった。





灯火の一行は歩き続ける。


そして誰も気付いていなかった。


少し離れた高層ビルの屋上から黒いコートの男が。


静かに彼らを見下ろしていたことに。

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