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第二十六話 揺れる

会議室は静まり返っていた。


誰も動かない。言葉を発せない。


一年。


あまりにも長い一年だった。


高木が先に沈黙を破る。


「さて」


手を叩く。


「再会イベントも終わったことだし」


「仕事に戻るか」


拘束された灯火の面々を見る。


その目に迷いはない。


掃除屋としての仕事。反乱分子の処理。


ただそれだけだった。


しかし。


「待て」


低い声が響く。


高木が振り返る。


藤崎だった。


高木は少し意外そうな顔をする。


「何です?」


藤崎は答えない。ただ灯火の面々へ視線を向ける。


その視線に。


誰より早く反応したのは榊だった。


「どうしたんだ藤崎」


会議室の空気が揺れる。


「お前がそんな場所に立ってるのは似合わんぞ」


「何があった」


榊の声に怒りはない。


失望もない。ただ純粋な疑問だった。


かつて共に戦った男へ向ける言葉。


藤崎はしばらく黙っていた。


だが答えない。代わりに。


安田が口を開く。


「藤崎」


低く。抑えた声。


「……あいはずっとあんたを待ってたんだッ」


あいの肩が僅かに震える。


安田は続ける。


「死んだかもしれない」


「政府に消されたかもしれない」


「それでも」


「生きてるって信じてた」


「ずっとだ」


会議室が静まり返る。


あいは何も言わない。ただ藤崎を見ていた。


一年ぶりに。ようやく会えた相手を。


藤崎は目を閉じる。


数秒。


そして。


ゆっくりとポケットへ手を入れた。


取り出したのは黒いスマホだった。


漆黒。灯火の誰もが見たことのない色。


その中央に刻まれている数字。


【0】


会議室がざわつく。


藤崎は静かに画面を表示した。


適性職。


【掃討官】


黒い文字が浮かび上がる。


「藤崎ではない」


静かな声。


「No.0だ」


安田が歯を食いしばる。あいの顔が曇る。


藤崎は続けた。


「高木、回収班を呼べ」


高木は答える。


「は?回収班?」


「いいから呼べ」


「……わかりましたよ。呼べばいいんでしょ」


灯火の面々が顔を上げる。


回収班。つまり。再同期。


死ではない。


少なくともこの場で処理されるわけではない。


藤崎はゆっくりと全員を見渡した。


「もう間も無く回収班が来る。10分ほどだろう。」


その言葉に高木が眉を上げる。


「逃げたければ逃げればいい。」


静かな声だった。


「だが」


そこで言葉が止まる。藤崎の目が冷たくなる。


「次に会った時は殺す」


誰も動けない。脅しではない。


宣言だった。


「推奨はしない。逃亡は更に窮屈な生活環境を生む。」


藤崎は踵を返す。


高木も肩をすくめながら後に続く。


掃除屋の面々も移動を始める。


会議室の扉へ向かう


その時だった。


「藤崎さん」


あいの声に藤崎の足が止まる。


あいは震える声で言う。


「……本当に」


「それでいいんですか」


沈黙。


藤崎は振り返らない。答えない。


だが。握られた拳が僅かに強くなる。


ほんの数秒。それだけだった。


「退却だ。」


藤崎は再び歩き出す。


そして会議室を後にした。


廊下。


高木が隣に並ぶ。


しばらく歩き。ふっと笑った。


「かつてのお仲間は特別扱いですか。職務放棄ですよ。これ。初代局長として、どうなんですか」


藤崎は前を向いたまま答えた。


「ナンバーズとしての判断だ。彼らは優秀な人材だ。国民として働いてもらう。」


「中央AIも、きっと上位職が適正だと判断する。いや、むしろ政府職員としてこの国のーーーーー」


「今日はよく喋りますね」


高木が遮った。


「どう言う意味だ」


「いやぁ?別に?」


高木が小声で言う


「……言い訳下手だなぁ…。」


「なんか言ったか」


「何でもないです。まぁ、回収班も呼んだことですし?優秀な国民になってくれることを祈るばかりですね。」


藤崎は何も答えない。


2人の足音が響く


高木は小さく笑う。


「まぁ、嫌いじゃないけどね。そういうトコ」


二人の背中は闇の中へ消えていった。

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