第二十四話 力量
ガチャリ。
会議室のドアが開く。
その瞬間だった。
黒い何かが視界を横切った。
誰も反応できない。
いや、反応した時にはもう終わっていた。
ドンッ!!
安田の体が壁に叩きつけられる。
同時にもう一人の黒い影が榊へ突っ込む。
榊は反射的に単管を振るった。
だが。
空を切る。
次の瞬間には背後を取られていた。
「っ!?」
肘が首に入る。
体勢が崩れる。
そこへ容赦なく膝蹴り。
榊が片膝をついた。
あいが立ち上がろうとした時には既に腕を捻り上げられていた。
「痛っ……!」
小宮も教授も一瞬だった。
十秒もかからない。
灯火幹部会議室は制圧された。
完全に。
圧倒的に。
何もできなかった。
彼らは名乗らないが、一瞬で察した。掃除屋だ。
黒いコート。
黒い革手袋。
黒いネクタイ。
まるで喪服だった。
ザザッ……
トランシーバーから声が流れる。
『三階制圧完了』
『四階クリア』
『屋上確認済み』
『抵抗勢力なし』
安田の表情が凍る。
終わった。
ビル全体が制圧された。
ガチャ。
再び扉が開く。
「さてさて」
聞き覚えのある声。
「何匹だ〜?」
高木だった。
一年前、回収班として立ちはだかった高木だ。
雨に濡れた黒いコートを脱ぎながら部屋へ入る。
まるで友人の家へ遊びに来たような気楽さだった。
そして。
「あ?」
高木が足を止める。
数秒。
「あー、なるほどな」
「そういうことか」
急に笑い出した。
「十七街区じゃねぇかここ!」
誰も笑わない。
だが高木だけは妙に楽しそうだった。
「そうかそうか」
「十七だったか」
頭を掻く。
「最近あっちこっち潰してたからな、気づかなかったわ」
ぞっとするほど軽い口調だった。
まるで仕事帰りの雑談。
しかし内容は。
一組織の壊滅だ。
高木は部屋を見渡した。
「お久しぶりっす」
榊を見る。
「生きてたんすね、さすが元ナンバーズ。しぶといなァ」
榊は睨み返す。
高木は気にしない。
次に安田を見る。
「お前もか、まぁ、お前はいいや」
そして。
あい。
高木の目が少しだけ丸くなる。
「へぇ……いい女になったな。」
あいは何も言わない。
ただ睨み返す。
高木は笑った。
「そんな睨むなよ。美人が台無しだぞ。」
「さて、懐かしいな、みんな元気してた?」
部屋の中央にあった椅子へドカッと腰掛ける。
完全に自分の部屋みたいだった。
「しかしまぁ」
「よく一年も生き延びたな。すげえよ。」
安田が吐き捨てる。
「お前らが来なかったお陰でな。」
高木は肩をすくめた。
「いや、普通は無理だぞ」
「他の街なんか半年持たねぇ」
静かになる。
高木は本気で感心していた。
「物資どうしてた?」
「壁の外か?協力者でもいんのか?」
誰も答えない。
「まぁいいか」
高木は笑う。
「どうせ全部潰すんだしな。」
その時。
榊が口を開いた。
「十六街区はどうした」
高木は一瞬だけ視線を向ける。
「処理した」
あまりにも淡々と。
「これが仕事なんでね。それだけだ」
「……」
「別に面白い話じゃねぇよ」
高木は机に置かれていた地図を眺める。
「灯火、か」
「ハハッ…。名前まで付けてたんだな」
少しだけ感心したように笑う。
そして。
ふと思いついたように。
「そうだ」
トランシーバーを取る。
「こちら高木」
『はい』
「ゼロ呼んでくれ」
部屋の空気が止まった。
あいの肩が震える。
安田が顔を上げる。
榊の目が細くなる。
高木は楽しそうだった。
「どうせならさ、再会を祝おうぜ」
笑う。あまりにも無邪気に。
「一年ぶりの同窓会ってやつかァ?」
トランシーバーの向こうから返事が聞こえる。
『了解しました』
『No.0へ連絡します』
高木は椅子にもたれた。
「さて、来るまで少し話そうか」
その言葉に。
誰一人として安堵しなかった。
なぜなら。掃除屋に捕まった時点で。
本来なら。もう死んでいるはずだったからだ。




