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第二十二話 転機

第二地区第十七管理街区――あおぞらまち。


古びた雑居ビルの一室。


かつて藤崎たちが身を寄せていたこの場所は、今では灯火の本部として機能していた。


壁には、あおぞらまちの地図。


机の上には物資の管理表や連絡記録が積まれている。


その中央で、灯火の幹部会議が行われていた。


「じゃあ始めるか」


安田の声で会議が始まる。


机を囲むのは五人。


共同代表のあい。


共同代表の安田。


灯火の協力者である榊。


情報担当の小宮。


そして顧問の佐伯教授。


一年という時間は彼らを大きく変えていた。




まず報告を始めたのはあいだった。


「今月の食料備蓄は予定より少し余裕があります。十三街区との交換で薬品も確保できました」


落ち着いた口調。


かつての幼さはほとんど残っていない。


新しく保護された目覚め人たちからも信頼される存在になっていた。


「薬品は助かるな」


榊が腕を組む。


「あおぞらまちも人数が増えた。備蓄はいくらあっても足りない」


あいは頷いた。


「保護対象も先月だけで十一人増えています」



「じゃあ次は私かな」


気だるそうな声が響く。


椅子の背にもたれながら手を挙げたのは小宮だった。


小宮美咲。


灯火の情報担当。


肩まで伸びた黒髪。


どこか眠たそうな目。


一見するとやる気があるようには見えない。


だが灯火が他街区と交流できている最大の理由は彼女だった。


物資輸送への潜入。


他地区組織との接触。


情報収集。


危険な役割のほとんどを担っている。


「十五街区との連絡は継続中」


小宮は資料をめくる。


「向こうも目覚め人が増えてる。規模は灯火の半分くらいかな」


「戦力は?」


榊が尋ねる。


「微妙。回収班が来ても逃げるしか選択肢がないって言ってたよ。」


「賢明だな」


榊が鼻で笑った。


「あと、十三街区で摘発があったらしいよ」


部屋が少し静かになる。


「被害は?」


安田が聞く。


「詳しい人数は不明」


小宮は肩を竦めた。


「生き残った連中は地下に潜ったみたい」




「では次は私か」


眼鏡を押し上げながら佐伯教授が口を開く。


元国立大学教授。


専門は人工知能工学。


中央AIの理論にも精通している灯火随一の知識人だった。


年齢は六十代後半。


穏やかな物腰だが、その頭脳は今も鋭い。


「最近の再同期反応について調べてみた」


教授は資料を机に置く。


「発生率が上昇している」


「目覚め人が増えてるってことですか?」


あいが聞く。


「おそらくね」


教授は頷いた。


「中央AIの同期精度が低下している可能性がある」


「壊れ始めてるってこと?」


小宮が聞く。


「いや」


教授は首を振った。


「人間の思考が想定以上に複雑だっただけかもしれない」


誰も反論しなかった。




報告が一通り終わる。


安田は机の中央に地図を広げた。


「じゃあ今後の活動について話そう」


全員の視線が集まる。


「まず保護活動は継続だ」


「最近は十六管理街区からの流入が増えてる」


「受け入れ体制を強化したい」


「住居が足りないですね」


あいが言う。


「空き倉庫を改装するか」


榊が答えた。


「俺が手配しよう」


「助かります」


安田は頷いた。



「それと壁外交流」


小宮が口を挟む。


「こっちはちょっとまずい」


「検査が厳しくなってる」


「今までのルートは長く使えないと思う」


「代替ルートは?」


「探してる最中」


小宮はため息をついた。


「面倒なんだよね最近」




会議はさらに続く。


食料。


薬品。


避難経路。


他街区との連携。


新しい隠れ家。


灯火はもはや小さな集まりではない。


一つの組織になっていた。


その時だった。




バンッ!!




会議室の扉が勢いよく開いた。


全員が反射的に立ち上がる。


榊は近くに立て掛けてあった単管パイプを掴む。


安田も警戒する。


飛び込んできた男は息を切らしていた。


服は泥だらけ。顔には傷がある。


目には強い恐怖が浮かんでいた。


「た、助けてくれ……!」


男はその場に崩れ落ちる。


「誰だ」


榊が鋭く問う。


男は震える声で答えた。


「十六管理街区の……目覚め人だ……」


部屋の空気が変わる。


安田が男を支える。


「何があった」


男は荒い呼吸を整えながら言った。


「昨日……やられた……」


「俺たちの組織は……壊滅した……」


誰も口を開かない。


男の唇が震える。


「掃除屋だ……」


その一言で。部屋の温度が下がったような気がした。


「生き残ったのは……俺だけだ……」


男は顔を上げる。


恐怖に染まった目で灯火の幹部たちを見る。


「次はここだ……」


「奴らは……灯火を潰しに来るぞ」

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