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第二十話 暗闇

雨は降り続いていた。


肩で息をする。視界が滲む。


何発殴られたのかも覚えていない。


頬は切れ。唇からは血が流れ。


腕もまともに上がらなかった。


それでも俺は立っていた。


立っていようとしていた。


路地には数人の回収班員が倒れている。


うめき声を上げる者。気絶している者もいたが


誰も死んではいない。だが無事とも言えなかった。


俺はふらつきながら周囲を見る。


安田はいない。


あいもいない。


追跡する気配もない。


逃げ切った。


少なくとも今は。


それだけで十分だった。


「……はは」


思わず笑いが漏れる。


その瞬間。後頭部を掴まれた。


「っ!」


乱暴に髪を引っ張り上げられる。


高木だった。


雨に濡れた顔。どこか呆れたような表情。


「てこずらせやがって」


高木は深くため息をついた。


「昔から変なところだけ意地っ張りだったな」


俺は笑う。


「うるせぇよ……」


高木は首を振った。

そして倒れた回収班員たちを見回す。


「何人か病院送りだぞ」


「どこの?」


「それ今重要か?……まぁ、くだらねぇことほざけるくらいには元気ってことか。」


「褒めてんのか?」


「半分な」


高木は苦笑した。


昔。会社帰りに飲んでいた頃と同じ顔だった。


それが妙に腹立たしい。


高木はしゃがみ込む。


「安心しろ」


「?」


「この地区にナンバーズはいない」


雨音が響く。


「実質的な責任者は俺だ」


高木は白いスマホを軽く振った。


「だからお前の処遇は俺が決められる」


嫌な予感しかしない。


「昔のよしみだ、悪いようにはしない」


「ちょっと見せたいもんがあるんだ。まぁ今はゆっくり休めよ」


その言葉が。


今までで一番恐ろしく聞こえた。


俺は何か言い返そうとした。


だが。体がもう限界だった。


膝が崩れる。意識が遠のく。


最後に見えたのは。


高木の背後で降り続ける雨だった。







揺れている。


規則的な振動。


薄暗い空間。


護送車。そう理解するまで数秒かかった。


手首は拘束されている。


頭が、体中が痛い。


目を閉じる。


そして考える。


高木の言葉。


榊の言葉。


あいの顔。


全部が頭の中をぐるぐる回っていた。


前の日常。


毎日働いて。将来を不安に思い。


誰かと競争し続ける世界。


この世界。


自由は少ない。


だが多くの人は幸せそうだった。


どちらが正しいのか。俺には分からない。


ただ一つ。あいだけは。


あいだけは。


守ってやりたかった


それだけだった。


揺れる車内。


雨音はもう聞こえない。瞼が重くなる。


意識が沈んでいく。


何が正解なのか。


最後まで分からないまま。


俺は静かに眠りに落ちた。

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