第十七話 裏切り
雨音が強くなる。
路地を塞ぐ回収班。
その先頭に立つ高木。
そして俺たち。
互いに動けないまま、数秒だけ時間が止まった。
「……高木」
俺は一歩前へ出た。
「何なんだよ、お前」
高木は肩をすくめる。
「何がだ?」
「何がじゃねぇ」
俺の声は自然と強くなる。
「何でそっちにいるんだよ」
高木は少しだけ笑った。
昔からそうだった。
困った時も。
面倒な時も。
いつもこんな笑い方をした。
「逆だろ」
高木は言う。
「何でお前はそっち側にいるんだ」
「は?」
「覚えてないか?」
高木は白いスマホをくるくると回した。
「毎日残業」
「毎日クレーム」
「上司は責任取らない」
「給料は上がらない」
「この国終わってるよなって」
「俺たち何回言った?」
俺は黙る。
言った。
確かに言った。
何度も。
酔っぱらうたびに。
「こんな社会おかしい」
「働く意味が分からない」
「何のために生きてるんだろうな」
そんな話を。
高木は続ける。
「俺も疲れてたんだよ」
笑顔が少し消える。
「だから選ばれた」
「選ばれた?」
「再構築の夜にな」
高木は空を見上げた。
「俺は運が良かった」
「政府に必要とされた」
「だから今ここにいる」
その言葉に。
俺は妙な寒気を覚えた。
高木は本気だった。
誰かに脅されているわけでもない。
洗脳されているようにも見えない。
そこには自分の意志がある。
「お前、本気で言ってるのか」
「本気だよ」
高木は即答した。
「少なくとも今の世界は平和だ」
「みんな幸せそうだろ」
「お前もずっと見てきただろ」
俺は反論できなかった。
それは事実だったからだ。
高木は視線を動かす。
そして榊で止まった。
「ところで」
空気が変わる。
「ナンバーズがこんなところで何やってるんだ?」
保持者たちが警戒を強める。
高木は笑う。
「リーダー不在じゃ、統制が取れなくて困っちゃうぜ」
榊は無表情だった。
「もう俺の地区じゃない」
「新しいナンバーズがいる」
「No.0が就任したんじゃないか」
高木は数秒黙った。
そして。吹き出した。
「ははっ」
「なるほどな」
肩を震わせながら笑う。
「そういえば、そういう設定だったな」
俺は眉をひそめる。
設定?
高木は榊を見る。
「お前、知らなかったんだな」
榊の表情が僅かに曇る。
高木は笑いながら続けた。
「No.0なんて最初から存在しない」
雨音だけが響く。
「空席だよ」
「ずっとな」
俺は思わず榊を見る。
榊も何も言わない。
その沈黙が答えだった。
高木は続ける。
「地区の頂点が空席なんて不都合だからな」
「だから“いることになっている”」
「ただそれだけだ」
俺の背筋に妙な寒気が走る。
どこまでが真実で。
どこまでが作られたものなのか。
この世界は何一つ信用できない。
そして高木はため息をついた。
「さて」
白いスマホを取り出す。
画面が点灯する。
「対象個体あい、それから愉快な仲間達。あとは、俺の元ボスだった奴?もいるよな。」
「回収開始」




