第十一話 ろーど
白い円は、ずっと回り続けていた。
俺は国民スマホを机へ置き、深く息を吐く。
「……壊れてんのか、これ」
あいは向かい側で首を傾げていた。
「こわれた、だと、しゅうり、です」
「いや、そういう問題じゃなくて……」
言いかけてやめる。
この世界の人間に、
“自分の仕事を自分で選ぶ”感覚はない。
与えられるのが当たり前。
決められるのが普通。
だから、
仕事が表示されないことに、
あいはそこまで違和感を持っていない。
「おしごと、ないひと、います」
「前も言ってたな」
「きまるまで、おやすみ、です」
俺はもう一度スマホを見る。
読み込み中。
それだけ。
さっき鳴った通知だけが、
逆に不気味だった。
『ろうどうじかんが、ちかいです』
仕事はある。
なのに指示が来ない。
まるで、
何かが俺を探しているみたいだった。
「……なあ」
「あい?」
「お前、自分で仕事選べたりしないのか」
あいは困ったように笑った。
「むずかしい、です」
「なんで」
「てきせい、あるから、です」
適性。
またその言葉だ。
「やさしいひと、は、やさしいおしごと、です」
「……」
「ちから、あるひと、は、はこぶ、です」
当たり前みたいに言う。
まるで、
生まれた時からそういう世界だったみたいに。
俺は小さく舌打ちした。
あいは少し驚いた顔をする。
「あ……ごめん」
「だいじょうぶ、ですよ」
そう言って笑う。
というか、幸福に支配されている?
まるで感情自体が、
この世界から薄れているみたいだった。
部屋の中は静かだった。
古い冷蔵庫の音だけが響いている。
俺はぼんやり天井を見上げる。
昨日まで、
普通に会社へ行っていたはずなのに。
上司の通知がうざくて。
仕事が嫌で。
毎日が面倒で。
なのに今は、
その“普通”が異常に恋しかった。
「……帰りたいな」
思わず漏れた声。
あいは少しだけ首を傾げた。
「ここ、です?」
「違う」
俺は目を閉じる。
「前の世界」
あいはしばらく黙っていた。
意味が分からないのかもしれない。
それでも、
彼女は静かに言った。
「ふじさきさん、かなしい、です?」
俺は答えられなかった。
その代わり、
スマホの白いロード画面を見つめ続けた。
くるくる。
くるくる。
白い円は回り続ける。
回っているものに催眠効果があるのは本当らしい
いつの間にか眠りについた。




