第86話 白百合家の優しい地獄 ― リフレッシュ食事会は大惨事!?
儀式の練習は、本当に体力を消耗した。
花芯合わせの段階になると、心・体・花の能力を同時にコントロールしなければならないため、
終わった後の四人は毎回ぐったりと疲れ果てていた。
そんなある日の放課後、白百合 桜良が皆を集めて、にこやかに言った。
「みんな、今日はお疲れ様。
お母様から提案があったの。
リフレッシュに、白百合家で簡単な食事会をしましょうって。
咲良と紡、ゆかりとあかりの二組だけよ。
ゆっくり食べて、力を蓄えましょう」
あかりが即座に両手を上げて喜んだ。
「わあ! 理事長様、ありがとうございます! 行きます行きます!」
ゆかりも少し緊張しながら微笑む。
「理事長様のお誘い……光栄です」
紡は琥珀の瞳を輝かせて桜良の手を握った。
「桜良さんのおうち……楽しみ……」
桜良は優等生らしい穏やかな笑顔で頷いたが、内心ではすでに小さな冷や汗をかいていた。
「お母様の優しさ」は、時に恐ろしいプレッシャーになることを、彼女はよく知っていた。
白百合家に到着した瞬間、四人はダイニングルームの光景を見て固まった。
円卓の上には、まるで宮廷料理のような豪華な和洋折衷のフルコースが20品近く並んでいた。
しかも一つひとつの皿に、麗華の手書きの小さなカードが添えられている。
『咲良の好きな白百合風味ハニーチキン♡』
『紡ちゃんの小さいお口に合わせた柔らか野菜テリーヌ』
『ゆかりちゃんの体に優しい藤色人参と紫芋グラタン』
『あかりちゃんの元気が出る特製栄養ゼリー』
そこへ、白百合 麗華(理事長)が気品たっぷりの笑顔で現れた。
「みんな、よく来てくれたわね。
理事長としてではなく、咲良のお母様として、今日は存分にくつろいでちょうだい。
……もちろん、明日の訓練にも繋がるよう、栄養をしっかり摂ってね?」
その瞬間、四人の背筋が同時にピンと伸びた。
あかりが小声でゆかりに囁く。
「ゆかりちゃん……理事長様の『優しい笑顔』が……なんか怖い……」
ゆかりも顔を引きつらせながら返す。
「あかりちゃん……理事長様の優しさは、いつも優しすぎてプレッシャーなんだよね……」
桜良は完璧な笑顔を保ちながら、皆に声をかけた。
「みんな、お母様がわざわざ作ってくださったのよ。
遠慮なく食べてね」
麗華は優しく微笑みながら、さらに追い打ちをかける。
「咲良の言う通りよ。
みんな、守り人候補なんだから、体力が大事。
あかりちゃんは特に元気いっぱいだから、たくさん食べてね。
ゆかりちゃんも、従妹としてしっかり食べて、みんなのお手本になってちょうだい。
紡ちゃんは小柄だから、野菜を多めに。
咲良は……お母様が一番心配しているから、しっかり食べてね?」
四人は一斉に笑顔を固めた。
あかり(心の声)「……理事長様、優しいのに……言葉の一つ一つがスパルタ……!」
ゆかり(心の声)「……理事長様の視線が……重い……」
紡(小声で桜良に)「……桜良さん……私、もう3皿目で限界……」
桜良(微笑みながら小声で)「……紡、頑張って……お母様が見てる……」
食事は表向きは和やかだったが、実際は大惨事だった。
麗華が優しい声で「おかわりは?」と聞くたび、四人は笑顔で「ありがとうございます!」と言いながら、必死に口に詰め込む。
あかりは元気いっぱいに食べ進めていたが、5個目のチキンを頰張ったところで限界を迎え、
ゆかりの太ももを小刻みに叩きながら小声で叫んだ。
「ゆかりちゃん……助けて……お腹パンパン……理事長様の視線が……痛い……」
ゆかりも青い顔で返す。
「あかりちゃん……私も……理事長様が『ゆかりちゃん、ちゃんと食べてね』って微笑んでる……逃げたい……」
紡は小さな体で必死に戦いながら、桜良の袖をぎゅっと握る。
「桜良さん……デザート3種類目で……死にそう……」
桜良は優等生らしく完璧に食べ進めながら、こっそり紡の皿から野菜を自分の皿に移そうとするが、
麗華の優しい視線がすぐに飛んでくる。
「咲良、紡ちゃんの分まで食べないでね♡」
麗華は終始、最高の笑顔で紅茶を注ぎ足し、
「みんな可愛いわね。もっと食べて、もっと元気になって。
満開が近づいているんだから、体力も大事よ?」
と、優しく、優しく、容赦なく追い詰めていく。
あかりがついに限界で、小声で絶叫した。
「うう……理事長様の優しさ……プレッシャー強すぎて……お腹より心がパンパン……!」
ゆかりがあかりの背中をさすりながら、必死に笑顔を作る。
「理事長様……本当に、ありがとうございます……(心の声:もう無理……雪乃お姉ちゃん助けて……)」
桜良と紡も、優等生コンビで必死に耐えながら、
時々視線を交わして「生きて帰ろう……」という無言の誓いを立てていた。
食事会の最後、麗華は満足そうに微笑みながら言った。
「みんな、よく食べたわね。
次はもっと量を増やしましょうか?」
その瞬間、四人全員の顔が一斉に青ざめた。
あかり「……次……?」
ゆかり「……量を……増やす……?」
桜良「……お母様……」
紡「……(無言で桜良の袖をぎゅっと握る)」
白百合家の「優しいリフレッシュ食事会」は、
表向きは華やかで温かく、
裏では四人の少女たちが「理事長様の優しさのプレッシャー」に押しつぶされそうな、
非常にコミカルな戦いの場となっていた。
麗華は最後まで優しい笑顔を崩さず、
「みんな、明日も頑張ってね」と締めくくった。
四人は満面の笑顔で「はい!」と答えたが、
心の中では「リフレッシュ……どこへ行った……」と叫んでいた。
こうして、白百合家の優しい地獄は、無事(?)に終了したのだった――。




