第56話 涙の蕾、開く予感
澪が部屋を出て行った後の沈黙は、重く苦かった。
桜良はベッドの上で膝を抱え、紫銀の瞳を伏せていた。
紡は隣に寄り添ったまま、そっとその手を握っていた。
やがて、桜良が小さな声で静かに打ち明けた。
「……紡。
私、ずっと隠していたことがあるの。
澪お姉さまから……執拗に、夜の性的な強要を受け続けていたわ。
姉の白百合の能力で、私の体はとても感じやすくなってしまった。
一度触れられただけで、蕾が震えてしまうような体質に……」
桜良の声は震えていた。
指先が紡の手を強く握りしめる。
「数日前の夜も……澪お姉さまの行為の途中で、私はうっかりあなたの名前を呼んでしまったの。
『紡……』って。
それで姉がとても怒って……だからさっき、あなたにあんなひどいことを言ったのよ。
全部、私のせい……ごめんなさい、紡」
大粒の涙が、桜良の紫銀の瞳から溢れ落ちた。
優等生の仮面が剥がれ、17歳の少女の脆さが露わになる。
紡は悲しい表情で桜良を見つめ、唇を軽く噛んだ。
その瞳に、痛みと同情が浮かんでいた。
桜良は嗚咽を堪えながら、掠れた声で呟いた。
「……私のこと、嫌いになったよね……」
その言葉を聞いた瞬間、紡の胸が締め付けられた。
彼女は小さく首を振り、突然桜良の体を強く抱きしめた。
「咲良さん……辛かったよね……」
紡の声が震え、すぐに涙が溢れ出した。
琥珀の瞳から大粒の涙が頰を伝い、桜良の肩に落ちる。
お互いの感情が、温かな体温を通じて伝わり合った。
桜良が想う孤独と罪悪感、紡が抱く献身と痛み二つの心が、初めて深く触れ合う瞬間だった。
「う……ぁ……っ」
桜良は大きな声で泣き出した。
これまで誰にも見せなかった、守り人の重圧と姉からの抑圧に押し潰されそうだった心が、堰を切ったように溢れ出す。
紡も一緒に泣いた。
小柄な体を桜良に預け、黒髪ショートを震わせながら、声を上げて泣いた。
二人はしばらく、ただ抱き合って涙を流し続けた。
やがて桜良が震える指で紡の頰の涙を拭い、紡も桜良の目元を優しく拭った。
互いの涙で濡れた指先が、そっと絡み合う。
そのすぐ後、紡がゆっくりと立ち上がり、自分の制服のボタンに手をかけた。
「……!」
桜良が驚いて目を見開く。
紡は恥ずかしそうに頰を赤らめながら、しかし決意を込めて衣服を脱ぎ始めた。
ブレザー、リボン、ブラウス……一つずつ丁寧に外し、最後に下着も滑らせるように脱ぎ落とす。
現れたのは、きゃしゃでいて意外とスタイルの良い裸体だった。
控えめな胸、細いウエスト、柔らかな曲線を描くヒップ。
小柄な体が、夕暮れの照明に淡く照らされ、儚げで可憐な花のように輝いていた。
紡は両手で胸の前を少し隠しながら、頑張った笑顔を作った。
声が少し上ずっていた。
「咲良さん……交花の……違う……今から愛し合いましょう……ね?」
その言葉に、桜良は息を飲んだ。
初めて見る紡の裸体に、紫銀の瞳が見とれてしまう。
可憐な肢体、琥珀の瞳に宿る純粋な決意、頰に残る涙の跡。
すべてが、桜良の心を強く揺さぶった。
桜良もゆっくりと立ち上がり、自分の服に手をかけた。
黒髪ロングが肩に落ち、優等生の清楚な制服が一枚ずつ剥がれていく。
二人は向かい合い、素肌を晒したまま静かに見つめ合った。




