第55話 閉ざされた蕾の誓い
白百合家応接間での麗華の重い話が終わった後、桜良と紡は静かに二階の桜良の部屋へと移動した。
部屋の中は柔らかな間接照明だけが灯り、白百合の淡い香りが漂っていた。
二人はベッドの端に並んで座り、しばらく言葉を失っていた。
レースのカーテンの向こうで、夕暮れの空がゆっくりと藍色に染まっていく。
沈黙を破ったのは、桜良だった。
「……紡」
初めて、呼び捨てだった。
優等生らしい丁寧な口調が崩れ、紫銀の瞳がまっすぐに紡を見つめていた。
「私は、紡を一生愛する」
その言葉は静かで、しかし揺るぎない決意に満ちていた。
桜良の黒髪ロングが肩に落ち、細い指が紡の小さな手をそっと握りしめる。
紡は琥珀の瞳を大きく見開き、桜良の言葉をまっすぐに受け止めた。
胸の奥が熱くなり、頰がわずかに赤らむ。
「咲良さん……」
紡の声も少し震えていたが、すぐに強い光が宿った。
「私もずっと、あなたと一緒に花を咲かせ続けます。
どんな代償があっても、どんな道でも……私は咲良さんの傍にいます」
二人は同時に身を寄せ合い、強く抱き合った。
小柄な紡の体が桜良の胸にすっぽりと収まり、互いの心臓の音が重なり合う。
まだ開花段階の深いキスと、交花の予兆を感じさせる熱が、二人の間で静かに燃え始めていた。
そこへ、軽いノックの音が響いた。
「入るわよ」
返事を待たずに扉が開き、長い黒髪を優雅に揺らした少女が入ってきた。
白百合 澪、19歳。
白百合女学園大学部二年生。
桜良の姉であり、強いシスコンを持つ長女だった。
澪は部屋に入るなり、ベッドに座る二人を眺め、濁った笑顔を浮かべた。
「へえ、あなたが紡さん。かわいいのね」
その声は甘く、しかしどこかねっとりとした響きがあった。
桜良の表情が一瞬で硬くなった。
「姉の澪です」
短く、冷たく紹介する。完全にこの場にいる澪を拒絶する様子がはっきりしていた。
紡は少し緊張しながらも、丁寧に頭を下げた。
「初めまして、紡と申します。1年生です。どうぞよろしくお願いします」
澪の笑顔が、突然歪んだ。
次の瞬間、彼女の声音が豹変した。
「あら、ずいぶん殊勝な挨拶ね。でもね、紡ちゃん。
お前みたいな下賤な子が、咲良に近づく資格なんてないのよ?
ただの桜適性の小娘が、純血の守り人候補に手を出すなんて、笑わせてくれるわ」
紡の体がびくりと震えた。
「お姉さま!! やめてください!!」
桜良が鋭く制止するが、澪は構わず続けた。
濁った笑顔のまま、愉しむように言葉を吐き出す。
「知ってる? この子の感度を上げて、白百合の能力を高めたのはあたしよ。
夜這いをかけて、蕾を何度も弄んで……あの可愛い喘ぎ声、覚えてる?
咲良はあたしの物。逃げられると思うな」
澪はそう言い捨てると、くるりと背を向け、部屋の扉に向かった。
「じゃあね、咲良。また夜にでも、遊びに来てあげる」
扉が閉まる音が響き、部屋に重い沈黙が落ちた。
桜良の紫銀の瞳に、怒りと屈辱が浮かんでいた。
紡は小さく体を震わせながら、桜良の袖を強く握りしめていた。




