第54話 姉妹の白百合
応接間の扉が静かに閉まる音がした。
桜良と紡の足音が廊下の奥へ遠ざかっていくのを、麗華はソファに座ったまま静かに聞き届けていた。
やがて、別の足音が近づき、扉が再び開く。
「麗華」
柔らかな、しかしどこか疲れた声音。
入ってきたのは、麗華とまるで双子のように似通った容姿の女性——妹の白百合 葵だった。銀がかった黒髪を優雅に束ね、紫銀の瞳には守り人としての重みを湛えている。
麗華はゆっくりと立ち上がり、妹を迎えた。
二人は向かい合い、互いの顔をじっと見つめ合う。歳の差を感じさせない、静かな美しさを持つ姉妹だった。
「葵……聞いてくれていたのね」
麗華の声は穏やかだったが、その奥に深い苦悩が滲んでいた。
彼女は再びソファに腰を下ろし、葵も隣に座った。
「ええ。桜良と紡に、ずいぶん重い話をしたわね」
葵は軽く微笑みながら、姉の横顔を優しく見つめた。
麗華は視線を落とし、指先で自分の膝の上のレースの端をそっと撫でた。
「……私はいつも、あなたにばかり重いものを背負わせてしまっている。
長子である私が家を継ぎ、次子であるあなたが大守り人の訓練を受け、純血の役割を担う……それが白百合家の習わしとはいえ。
あなたに、どれほどの責任と重圧を負わせてきたことか。
沙耶さんと共にレイラインを支え、力を削りながら生きて……本当に、ごめんなさい、葵」
声は静かで、優しかった。
しかし、その言葉の端々に、姉としての罪悪感が深く刻まれていた。
麗華の瞳は、妹の顔をまっすぐに見つめながらも、わずかに揺れていた。
葵は小さく息を吐き、姉の肩にそっと手を置いた。
その仕草は、まるで守り人としての優しさを、姉に向けるかのようだった。
「そう悪い生活じゃないわよ、麗華」
葵の声は明るく、穏やかだった。
「さっきあなたが桜良たちに説明したことと違って、ボディーガードがいても意外と自由は確保できるものよ。
政府の目があっても、私たちは私たちらしく生きている。
……それに」
葵はそこで少し目を細め、姉の手に自分の手を重ねた。
「私が一番苦しかったのは、あなたが気を使ってくれたあの時よ。
澪と桜良の父親と別れたとき……あなたが私に遠慮して、家族の形を崩したとき。
あのときの私の方が、ずっと辛かった。
だから、もっと楽に生きて。
あなたはもう十分、私や娘たちのために頑張ってくれているんだから」
麗華の瞳が、わずかに潤んだ。
双子のように似た二人の顔が、静かな午後の光の中で重なり合う。
「葵……」
「大丈夫よ。
私は自分の道を選んだの。
あなたが家を守ってくれるからこそ、私は大守り人として咲いていられる。
それでいいの」
葵はそう言って、姉の肩を優しく抱き寄せた。
白百合の香りが、二人の間で静かに満ちていく。
応接間のカーテンが、そよ風に軽く揺れた。




