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第23話:朝の残香 ― 昨夜の蕾の記憶

朝の白百合女学院は、柔らかな陽光に包まれていた。

校舎の窓辺に白百合の花が静かに揺れ、その清らかな香りが廊下に薄く広がっている。

桜良さくらは制服の襟元を整えながら、昨夜の記憶を胸の奥でそっと撫でていた。

昨夜の温室で交わした、軽いキス。

唇が触れた瞬間、蕾がわずかに震え、甘い露のような熱が体を巡った。

あの感覚は、まだ身体の奥に残っている。


姉・澪からの繰り返しの愛撫に慣れた体は、そんなわずかな刺激にも敏感に反応してしまう。

それでも、心の奥底では違う何かが芽吹いていた。


桜良さくら先輩、おはようございます」


明るく柔らかな声が背後から響いた。振り返ると、そこにつむぎが立っていた。

小柄な体を少し前傾させ、琥珀の瞳を輝かせて微笑んでいる。黒髪ショートが朝の光に柔らかく映え、152cmの可憐なシルエットが愛らしい。


つむぎさん、おはようございます。今日も早いですね」


桜良さくらは優等生らしい穏やかな微笑みを浮かべ、静かに答えた。二人は自然と並んで歩き始め、誰もいない廊下の角で足を止めた。

つむぎが少し頰を赤らめながら、小さな声で切り出した。


「あの……昨夜の約束、覚えていますか? これから、私たち……開花へと進む過程で、ルールを作ろうって」


桜良さくらの紫銀の瞳が優しく細められた。


「ええ、覚えています。登下校を共に、手をつないで。下校時の別れ際には、軽いキスを……そうですね。そうやって、少しずつ準備をしていきましょう」


言葉にすると、なんだか照れくさいルールのように聞こえる。


でも、それは花紡ぎの儀式のためだけではない。二人はすでに、お互いを強く愛しているという自覚が、心の蕾の中で静かに花開き始めていた。ただ一緒にいたい。

ただ触れ合っていたい。

そんな純粋で甘い想いが、二人を自然と近づけていた。

つむぎがくすくすと笑い、指を絡めるように桜良さくらの手を取った。


小さな手は温かく、少し汗ばんでいる。


挿絵(By みてみん)



「先輩と手をつないで登校するの、なんだかドキドキします……まるで恋人みたい」


「ふふ、つむぎさんったら。恋人……そうですね。私たち、すでにそんな気持ちなのかもしれません」


桜良さくらも指を優しく絡め返し、ラブコメのような軽やかな甘さが二人の間に広がった。

手をつないだまま歩く姿は、まるで普通の恋する少女たちのように無邪気で、しかしその奥には運命的な花の予感が静かに息づいている。

校門近くまで来ると、つむぎが少し名残惜しそうに手を離した。


「じゃあ……また下校の時に」



「ええ。でも、その前に一つ、提案があります」


桜良さくらは穏やかに微笑み、つむぎの琥珀の瞳を見つめた。


つむぎさん、今は私を『桜良さくら先輩』と呼んでくださっていますが……これからは、もっと親しみを込めて名前で呼んではいただけませんか?」


つむぎが目を丸くした。


「え……名前で、ですか?」


「はい。でも、呼び捨ては少し……照れくさいかもしれませんから、『桜良さくらさん』と呼んでいただけると嬉しいです」


一瞬の沈黙の後、つむぎの頰がぽっと赤くなった。

彼女は小さく頷き、恥ずかしそうに、しかしはっきりとした声で言った。


「……桜良さくらさん」


その呼び方が、胸の奥に甘く響いた。

桜良さくらの唇が自然とほころぶ。


「ええ、素敵です。つむぎさん」


二人は軽く視線を交わし、朝の光の中で互いの存在を確かめ合うように微笑み合った。

まだ本格的な開花には至っていない。

しかし、蕾は確かに揺らぎ始め、甘い残香を朝の空気に溶かしていた。




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