表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/69

第22話 近くてまだ遠い満開

学園の古い温室は、夜の静けさに包まれていた。

月明かりがガラス屋根を透かし、古びた白百合の蔓が淡く輝いている。

二人は、誰もいないその場所で静かに向き合っていた。

桜良さくらの紫銀の瞳は、穏やかでありながら深い想いを湛えていた。

つむぎは小柄な体を少し緊張させ、琥珀の瞳で桜良さくらを見つめ返している。


つむぎさん……」


桜良さくらはゆっくりと手を伸ばし、つむぎの柔らかな頰に指先を這わせた。

指の腹が優しく滑り、温かな肌の感触を確かめるように。

つむぎの頰が、ほのかに桜色に染まった。

桜良さくらはもう片方の手で、つむぎの腰を優しく引き寄せた。

二人の距離が、ゆっくりと縮まる。

唇が、触れ合う寸前まで近づいた。

桜良さくらはそこで動きを止め、つむぎの瞳を真っ直ぐに見つめた。

そこにあるのは、純粋で揺るぎない覚悟だった。

ルリカの棘に傷つきながらも、自分から選んだ道への決意。

その覚悟の美しさに、桜良さくらの胸が熱くなった。


「……つむぎさん」


囁くように名前を呼び、桜良さくらはごく軽く、甘美なキスをした。

唇が、そっと重なるだけの、触れる程度のキス。

熱く湿った感触ではなく、柔らかく優しい、蕾がそっと触れ合うようなキス。



挿絵(By みてみん)



その瞬間——

二人の周囲で、白と桜色の光の粒子が強く、激しく舞い上がった。

これまでで最も濃い、甘い百合の香りが温室全体に広がり、蔓のような柔らかな光が二人を優しく包み込んだ。

つむぎの小さな体が、わずかに震えた。

桜良さくらの唇の温かさが、胸の奥まで染み渡る。

キスは長くは続かなかった。

桜良さくらはゆっくりと唇を離し、つむぎの額に自分の額を優しく寄せた。


「開花は……もうすぐ、です。

でも、まだ……遠い」


桜良さくらの声は切なく、しかし優しかった。

つむぎは小さく頷き、桜良さくらの胸に顔を埋めた。


「はい……でも、私は、待っています。先輩と一緒に……咲くことを」


二人はそのまま、静かに抱き合いながら、温室の夜を過ごした。

強い光の粒子と濃い香りが、まだ二人を包み続けている。

しかし、花弁は完全に開くには至らず、蕾のまま、甘く疼く予感だけを残していた。

咲いてしまった花は、もう戻らない——

その運命の予感が、二人の間に静かに、しかし確かに広がっていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ