第21話 均衡の揺らぎ ― 三者の視線
放課後、紡は一人で温室の裏手にある小さな花壇の手入れをしていた。
小柄な体を屈め、黒髪ショートを耳にかける仕草が控えめで優しい。
突然、後ろから荒々しい力で肩を掴まれた。
「きゃっ……!」
振り向いた先にいたのは、深紅の髪を逆立てた薔薇宮 ルリカだった。
彼女の瞳は嫉妬と狂気に燃え上がり、棘のある薔薇の幻影が激しくうねっている。
ルリカは紡を壁際に乱暴に押しつけ、両手で彼女の胸を強引に鷲掴みにした。
指が深く食い込み、制服越しに柔らかな膨らみを激しく揉みしだく。
「ひっ……! やめて……ルリカ先輩……痛い……!」
紡の声が恐怖で震えた。
ルリカは顔を極限まで近づけ、吐き捨てるように低く毒々しい声で言い放った。
「自分からさっさと辞退しなさいよ、この役立たずのチビ乳ビッチ。
お前みたいな貧相な小さい胸と、狭くて未熟な穴で、さくらを満足させられると思ってるの?
さくらはもっと激しく、奥の奥まで抉られて、めちゃくちゃに犯されて、泣きながらイキ狂うような快楽を求めているのよ。
お前みたいな子供の体じゃ、指一本満足に入らないくせに、さくらの花芯を悦ばせられるわけないでしょう?
ただの邪魔な肉便器候補の分際で、さくらに近づくな、このクソガキ!」
卑猥で残酷な言葉が、紡の心を容赦なく抉った。
彼女の瞳に大粒の涙が溢れ、震える手でルリカの腕を押し返そうとするが、力が入らない。
その時——
「ルリカ!!」
鋭く冷たい声が響き渡った。
白百合 桜良が、怒りの形相で駆けつけた。
紫銀の瞳が、これまで見たこともないほど激しく燃え上がっている。
桜良は迷わずルリカの頰を全力で張った。
パァン!!
乾いた激しい音が温室に響き、ルリカの顔が大きく横に弾かれた。
「次に紡さんに手を出したら……これよりひどい痛みを、必ず味わわせるわ」
桜良の声は低く、冷たく、守り人としての威厳と殺気すら感じさせる怒りに満ちていた。
普段の優等生らしい穏やかな姿とは全く違う、圧倒的な威圧感に、ルリカでさえ一瞬体を竦ませた。
ルリカは頰を押さえ、悔しそうに唇を血が出るほど噛んだが、桜良の眼光に押され、後ずさった。
「……この……覚えておきなさい……!」
ルリカは深紅の髪を乱れさせたまま、逃げるように温室を去っていった。
残された紡は、壁に背を預けたまま激しく震えていた。
桜良はすぐに彼女のそばに駆け寄り、優しく肩を抱き寄せた。
「紡さん……私のせいで、ごめんなさい。本当に、ごめんなさい……」
桜良の声は痛切で、紫銀の瞳に深い後悔と自責が浮かんでいた。
紡は、震える体で桜良の首にそっと抱き着いた。
小柄な体を預け、耳元に唇を寄せて、か細いけれど確かな声で囁いた。
「……これで、覚悟が決まりました」
そして、彼女は桜良の唇に、軽く、しかしはっきりとキスをした。
柔らかな、初めてのキス。
桜良の瞳が見開かれた。驚きと喜びが一瞬で混じり合う。
次の瞬間、桜良は満面の笑みを浮かべ、紡の小さな体を強く、優しく抱きしめ返した。
「ありがとう……紡さん」
その言葉を、桜良は耳元で優しくささやいた。
すると、温室に爽やかな風が吹き込んだ。
白百合と桜の輝く光の粒子が、二人の周囲に美しく舞い上がり、甘い香りが濃やかに広がった。
花びらが優しく降り注ぎ、二人の新たな一歩を、静かに祝福するように。
ルリカの棘がもたらした乱れは、まだ完全に消えていない。
しかし、この瞬間、二人の心は確かに、開花への扉に手をかけたのだった。




