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第24話:温室の午後 ― 紫藤の蔓と出会い


午後の陽光がガラス屋根を優しく透過し、白百合女学院の古い温室は淡い光の粒子に満ちていた。空気は湿り気を帯び、さまざまな花の香りが静かに混ざり合っている。

今日は特別授業として、適性を持つ生徒たちが花の力を観察し、互いの感情を読み解く時間が設けられていた。

桜良さくらつむぎは、温室の奥にあるベンチ近くに並んで立っていた。

朝に交わした約束通り、下校まで手をつなぐ時間はまだ先だが、こうして二人きりで過ごす午後もすでに甘い予感を孕んでいる。


桜良さくらさん……この温室、なんだか落ち着きますね」


つむぎが小声で囁き、琥珀の瞳を輝かせた。小柄な体を少し寄せ、黒髪ショートの先が桜良さくらの肩に軽く触れる。


「ええ、つむぎさん。ここは花が素直に心を映す場所ですから」


桜良さくらが穏やかに微笑み返したその時、温室の入り口から優雅な足音が近づいてきた。

淡い藤色の髪をセミロングに流した長身の少女――紫藤 かえでが、静かな微笑みを浮かべて立っていた。


挿絵(By みてみん)




その隣には純白に近い明るい白髪を肩口でまとめた橘 玲奈れなが、黄金の瞳を明るく輝かせている。

二人はすでに「満開」の域に達した中守り人ペアとして、地域のレイラインを支える存在だった。


桜良さくらの紫銀の瞳が柔らかく細められた。遠縁の血筋である楓とは、幼い頃から顔を合わせる機会が多く、親しみを込めた呼び名が自然と口をつく。


「楓お姉さま……お久しぶりです。お元気そうで何よりです」


優等生らしい丁寧な口調ながら、声には幼い頃からの信頼が滲んでいた。楓が静かに頷き、深い紫の瞳で桜良さくらを見つめる。


桜良さくら。久しぶりね。相変わらず美しい蕾を保っているわ」


続いて桜良さくらは、玲奈に向かって深く頭を下げた。高校生でありながらすでに一流の中守り人として活躍するその力量に、純粋な尊敬の念を込めて。


挿絵(By みてみん)


「玲奈様も、お変わりなく。いつも地域の均衡をお守りくださり、感謝申し上げます」


玲奈が明るく笑い、黄金の瞳を細めた。


「そんな堅苦しい呼び方、いいよ。でも嬉しいな。桜良さくらの気持ち、ちゃんと伝わってくる」


二人が視線を移すと、隣に立つ小柄な少女に気づいた。つむぎが少し緊張した様子で、152cmの体を小さくしている。

桜良さくらが優しくつむぎの背に手を添え、紹介した。


「こちらはつむぎさん、1年生です。私の……大切な存在です」


つむぎが慌てて頭を下げ、頰を少し赤らめながら挨拶する。


「あ……初めまして、つむぎです。1年生で、桜良さくらさんと一緒に……えっと、よろしくお願いします」


楓が穏やかな微笑みを浮かべ、淡い藤色の髪を軽く揺らした。


つむぎさんね。初めまして。紫藤 かえでです」


玲奈も明るく手を軽く挙げ、活発な笑顔を見せる。


「橘 玲奈れなだよ。よろしくね、つむぎさん。君の瞳、すごく優しそう。きっと素敵な花を咲かせる子だね」


初対面の緊張を、玲奈の明るさと楓の静かな気品が自然と溶かしていく。

温室の空気に、紫藤の蔓のような優雅な気配と、橘の白い花の爽やかな香りがふわりと広がった。


桜良さくらは二人の存在に心のどこかで安堵を覚えていた。守り人としての重圧を、遠縁の楓お姉さまと尊敬する玲奈様が静かに受け止めてくれる。

そんな信頼が、昨夜のキスの余韻と重なり、胸の蕾をさらに優しく揺らしていた。


つむぎもまた、桜良さくらの横で小さく息を吐き、琥珀の瞳を輝かせた。


まだ本格的な開花には遠いが、こうして大切な人たちに囲まれている時間は、甘く温かな予感に満ちていた。


温室の光粒子が、淡い藤色と純白の輝きを交ぜながら、二人の周囲に静かに降り注いでいた。




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