表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/92

第18話 震える指 ― 紡《つむぎ》の初めての触れ合い

雨の音がガラス屋根を優しく叩く午後、温室は二人だけの静かな世界になっていた。

つむぎは小さなジョウロを手に、花壇の前にしゃがみ込んでいた。

黒髪ショートが湿り気を帯び、琥珀の瞳が花の蕾を真剣に見つめている。

少し離れた場所に立っていた白百合 桜良さくらは、黒髪ロングを耳にかける仕草を繰り返しながら、つむぎの後ろ姿をじっと見つめていた。

胸の奥が、疼くように熱い。


つむぎさん……あなたが、こんなに近くにいるだけで……)


愛しい気持ちが、抑えきれずに先走った。

桜良さくらは無意識に一歩近づき、両手をつむぎの細い腰に回した。

強く、しかし優しく、背後から抱きしめてしまう。


挿絵(By みてみん)



「え……!?」


つむぎの体が、びくりと大きく震えた。

突然の強い抱擁。

後ろから回された腕の力、桜良さくらの胸がしっかりと背中に押しつけられる感触、甘い百合の香りが一気に濃くなる。

すでに一度軽い抱擁を経験したとはいえ、今回はそれよりもずっと密着した、突然の親密さだった。


「せ、先輩……!?」


小柄な体が一瞬で硬直し、ジョウロを持つ手が震えて落ちそうになる。

顔が真っ赤になり、羞恥と驚きで息が詰まった。琥珀の瞳が見開かれ、体が小刻みに震える。


「す、すみません……つむぎさん……」


桜良さくらはハッと我に返り、慌てて腕の力を緩めようとした。

愛しい気持ちが先走ってしまった自分を、すぐに後悔した。

しかし、二人の適性がそれを許さなかった。

白と桜色の光の粒子が、静かに、しかし強く舞い上がり始めた。

甘い百合の香りが、雨の湿った空気の中で濃く広がる。

腰に触れた部分から、柔らかな光の蔓が二人を優しく結びつける。

つむぎは震える指で、自分の腰に置かれた桜良さくらの手を、そっと覆った。


「……先輩……急に……びっくりした……」


声は小さく、恥ずかしさで震えていたが、完全に拒絶するものではなかった。

桜良さくらは優しく息を吐き、腕の力を少しだけ緩めた。


「ごめんなさい……あなたが、愛しくて……つい……」


つむぎはゆっくりと体を半分だけ回転させ、桜良さくらの胸に額を軽く預けるような姿勢になった。

まだ心臓の音が速いままだったが、徐々に体から力が抜けていく。


「……先輩のぬくもり……温かい……」


彼女は勇気を振り絞り、自ら軽く手を伸ばして、桜良さくらの腕に指を絡めた。


挿絵(By みてみん)


二人はそのまま、ゆったりとした時間の中で、軽く触れ合うぬくもりを共有した。

桜良さくらつむぎの腰に手を添えたまま、優しく撫でるように動かした。

つむぎは最初こそ体を硬くしていたが、雨の音に耳を傾けながら、少しずつ安心した表情を浮かべ始めた。

自然と手と手が絡み合い、指先が優しく触れ合う。

温室に降る雨の音だけが響く中、二人は静かに、心の距離を少しだけ縮めていた。

光の粒子が穏やかに舞い続け、甘い香りが二人を優しく包み込んだ。

この触れ合いは、まだ開花には遠い。

しかし、つむぎの震える指が、自ら求めたぬくもりは、桜良さくらの胸に、静かな希望を灯していた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ