表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/67

第16話 すみれの棘 ― あかりの告白


放課後の教室は、夕陽が差し込んでオレンジ色に染まっていた。

つむぎは自分の机に座ったまま、教科書を片付けていた。小柄な体が少し疲れた様子で、黒髪ショートが額に軽く張りついている。

最近、桜良さくらと過ごす時間が増えたせいか、心がどこか浮ついていた。


「つむぎ」


明るい声とともに、すみれ野あかりが隣の席に腰を下ろした。ポニーテールにした明るい茶色の髪が、夕陽に輝いている。


「今日も……桜良先輩と一緒にいたよね?」


あかりの声はいつも通り明るかったが、どこか微妙に硬かった。つむぎは教科書を鞄にしまいながら、素直に頷いた。


「うん……少し、お話ししてた。温室で」


あかりはしばらく黙っていた。

やがて、彼女は深呼吸をして、つむぎの顔をまっすぐに見つめた。


「最近、つむぎ……すごく変わったよね。

目が、なんだか優しくて……綺麗で……」


あかりの頰が、ほんのり赤くなった。

彼女は少し声を落とし、しかしはっきりと言った。


「つむぎ、私……ずっと前から、つむぎのことが好きだよ。

ただの親友じゃなくて……恋として、好きなんだ」


挿絵(By みてみん)



教室に、静かな緊張が落ちた。

つむぎの琥珀の瞳が見開かれた。

心臓が、どくんと大きく鳴る。


「え……あかり……?」


あかりは微笑もうとしたが、唇が少し震えていた。


「桜良先輩と一緒にいるのを見てて、気づいたの。

私、つむぎが他の誰かと仲良くしてるの見ると、胸が苦しくて……

だから、ちゃんと伝えたかった」


つむぎは言葉を失った。

親友だと思っていたあかりの突然の告白。

しかも「好き」という、恋心としての言葉。

頭の中が真っ白になりながらも、別の想いが胸の奥からゆっくりと浮かび上がってきた。


桜良さくら先輩……)


温室での軽い抱擁。手をつないだときの温もり。紫銀の瞳が優しく自分を見つめてくれた瞬間。

あのとき感じた、穏やかで甘いざわつき——それは、ただの「友達」の感情ではなかった。

つむぎは無意識に、自分の胸に手を当てた。


「……ごめんね、あかり。私……まだ、よくわからなくて……」


あかりは小さく笑ったが、その笑顔は少し寂しげだった。


「ううん、いいよ。急に言っちゃってごめん。

でも、つむぎが幸せなら……それでいいから」


その瞬間、二人の間に淡い紫色の光の粒子が、ほのかに舞い上がった。

すみれの蕾が、ゆっくりと、しかし確かに萎れていくような——甘い香りが、わずかに色を失ったように感じられた。

つむぎはそれに気づき、胸が痛くなった。


「あかり……」



「大丈夫。私の気持ちは、伝わったから」


あかりは立ち上がり、いつもの明るい笑顔を無理やり浮かべた。


「また明日ね、つむぎ」


あかりが教室を出て行った後、つむぎは一人、机に突っ伏した。

心が激しく揺れていた。

あかりの告白は嬉しかった。

でも、それ以上に強く浮かぶのは、桜良さくらの顔だった。


(私は……桜良さくら先輩のことが……好きなんだ……)


その自覚が、胸の奥を熱く疼かせた。

純粋で無垢なつむぎの心に、初めての恋の棘が、静かに刺さり始めていた。


挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ