表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/135

第103話 病室に咲く白百合 ― 託される花

病室の柔らかな照明の下、桜庭 遥はベッドに体を預けたまま、娘・紡の顔を優しく見つめていた。

先ほどの親子の会話で溢れた涙の跡が、まだ頰に薄く残っている。

紡は母親の手をそっと握ったまま、ドアの方へ視線を移した。


「お母さん……少しだけ、待っていて。

 桜良さんを、呼んでもいい?」


遥の瞳が、わずかに見開かれた。

白百合家の次期大守り人候補、その名前を聞いただけで、元小守り人としての本能が、静かに緊張を呼び起こす。


「……ええ、もちろん。

 お母さんも、ぜひお会いしたいわ」


紡は微笑み、病室のドアを静かに開けた。

廊下で控えていた白百合 桜良が、紫色の瞳を優しく輝かせて入ってくる。

銀に近い金髪が病室の光に照らされ、純白の学園制服が清らかさを際立たせていた。

彼女は一歩入るなり、深く頭を下げた。


「初めまして、お母様。

 白百合 桜良と申します。

 突然お邪魔してしまい、申し訳ありません」


遥はベッドの上で体を起こそうとし、慌てて手を振った。


挿絵(By みてみん)



その動作に、病の弱々しさがにじみ出る。


「い、いえ……恐縮です。

 白百合家の……次期大守り人候補のお嬢様が、こんな病室にまで……

 本当に、光栄で……畏れ多いです」


遥の声は震え、顔が赤らんでいた。

元小守り人として、白百合家の血筋がどれほど尊いかを、身に染みて知っている。

自分の娘がその相手であることへの驚きと、恐縮の念が、胸を強く締め付けた。桜良は穏やかに微笑み、ベッドの横に近づいた。

その動きは優雅で、しかし自然な気遣いに満ちている。


「そんな……お母様こそ、私にとって大切な方です。

 紡さんの大切なお母様。

 どうぞ、気軽にお話しください」


紡は二人の間に立ち、母親と桜良を交互に見つめた。

胸の奥で、温かいものが広がる。

会話は、最初こそ遥の緊張でぎこちなかったが、徐々に柔らかくなっていった。

紡が二人の出会いのきっかけや、学園での日々を優しく語る。

桜良も、交花の練習で感じた紡の優しさや、二人で重ねた触れ合いの想いを、詩的で控えめな言葉で伝える。遥は静かに聞きながら、徐々に表情を緩めていった。

娘が話す桜良の名前を呼ぶ声の優しさ、桜良が紡を見つめる紫色の瞳の深さ。

そこには、単なる「ペア」以上の、魂で結ばれたつながりが確かにあった。


「…本当に、深い絆なのね……

 紡が、あんなに輝いた目で誰かのことを語るなんて……

 お母さん、安心したわ」


遥の声に、安堵の色が濃く混じった。

不安の影が薄れ、母親としての温かい喜びが、代わりに胸を満たしていく。その時、桜良がそっと目を閉じた。

白百合家の純血の能力、光の粒子を優しく放つ力が、静かに発動する。病室の空気が、ふわりと変わった。

淡い光の粒子が、桜良の周囲からゆっくりと舞い上がり、部屋全体を包み込む。

甘く澄んだ百合の香りが広がり、遥の体を優しく撫でるように満ちていった。

痛みや疲労が、ほんの少しずつ和らぐような感覚。

病室は、まるで癒しの聖域へと変わっていった。遥の瞳が、驚きと感謝で大きく見開かれた。


「これは……白百合の……

 なんて、温かい……」


桜良は静かに微笑み、粒子をさらに優しく制御した。

光の花弁が、遥のベッドの周りを優しく舞う。遥はゆっくりとベッドから身を乗り出し、深く頭を下げた。

その動作には、元小守り人としての敬意と、母親としての全ての想いが込められていた。



「白百合 桜良様……

 どうか、紡を……私の大切な娘を、よろしくお願いいたします。

 託します。

 あなたの花と、紡の花が、共に美しく満開を迎えられますように」


その姿に、桜良の胸が熱く締め付けられた。

次期大守り人候補として頭を下げられることへの恐縮と、遥の母の愛の深さに、目頭が熱くなる。


「遥様……そんな、頭を上げてください……」


桜良は慌てて手を伸ばし、遥の肩にそっと触れた。

その指先から、さらなる優しい光の粒子が流れ込み、遥の体を包む。


「私こそ、恐縮です。

 紡さんは、私の大切な人。

 彼女の優しさ、強さ、温もり……全てを、私は愛しています。

 必ず、紡さんを大切にします。

 どんな運命が待っていても、彼女の花を傷つけないように、

 私の全ての心と体で、守り、支え、共に咲いていきます。

 ……約束します」


桜良の声は静かだったが、強い誓いの響きを帯びていた。

紫色の瞳に、決意と優しさが輝く。

紡は二人の姿を見つめ、胸の奥で熱いものが込み上げてきた。

母親の信頼と、桜良の誓い。

それが、彼女の心を優しく、強く満たしていく。

遥はゆっくりと顔を上げ、桜良の手に自分の手を重ねた。

三人の間に、淡い光の粒子が優しく舞い、病室を癒しの空間に変え続けていた。


「ありがとう……本当に、ありがとう……

 これで、お母さんは安心して……眠れそうよ」


遥の微笑みは、穏やかで満ち足りたものだった。

窓の外では、遠くの森に百合の花が、静かに満開を迎えようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ