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第104話 帰り道の光の粒子 ― 誓いと報告

星ノ宮病院の長い廊下を、桜良と紡は並んで歩いていた。

病室のドアを閉めた瞬間、病室内に満ちていた癒しの光の粒子が、二人を優しく追いかけるように廊下にまで漏れ出していた。

外はすでに夕暮れに近く、窓から差し込むオレンジ色の光が、二人の制服を淡く染めている。桜良は少し前を歩きながら、紫色の瞳を伏せ気味にしていた。

胸の奥が、まだ熱くざわついている。遥の頭を下げた姿と、「紡を託します」という言葉が、繰り返し脳裏に蘇る。紡は桜良の横に並び、そっとその手を握った。

指先が触れ合うと、淡い光の粒子が二人の間で小さく舞い上がった。


「桜良……ありがとう。

 お母さんに会ってくれて」


桜良は足を止め、紡の方を向いた。

銀に近い金髪が夕陽に輝き、頰がわずかに桜色に染まっている。


「ううん……こちらこそ、ありがとう。

 お母様の……遥様の想いが、とても重くて、温かくて……

 私、恐縮してしまって。頭を下げられた瞬間、心臓が止まりそうだったわ」


彼女の声は少し震えていた。次期大守り人候補としての誇りと、ただの十七歳の少女としての純粋な恐縮が、混じり合っている。紡は優しく微笑み、桜良の手を両手で包み込んだ。


「母さんは、本当に喜んでいたよ。

 最初はすごく緊張して『白百合のお嬢様が……』って恐縮していたのに、

 私たちの話を聞いているうちに、だんだん顔が柔らかくなって……

 最後にあの光の粒子で病室が癒しの空間になったとき、母さんの目が本当に安心したように輝いていた。

 桜良の能力が、母さんを少しでも楽にしてくれたんだね」


桜良は目を伏せ、指先で紡の手の甲をそっと撫でた。

触れ合った部分から、温かい花弁のような感覚が広がる。


「私も……遥様に『必ず紡さんを大切にします』って誓ったとき、

 自分の言葉が、こんなに重く感じたのは初めてだった。

 ただの約束じゃなくて、心の底から出た誓い。

 紡、あなたの花を傷つけない。

 あなたの心を、ちゃんと受け止めて、一緒に咲いていく……

 あの瞬間、私の本当の想いが溢れてしまったみたい」


二人は廊下のベンチに腰を下ろした。

周囲に人はおらず、静かな病院の空気に、二人の甘い吐息だけが混じり合う。紡は桜良の肩にそっと頭を寄せた。


「私も……怖かった。

 母さんが不安そうな顔をしたとき、胸が苦しくなった。

 でも、桜良がそっと肩に触れて誓ってくれた瞬間、

 母さんの表情が本当に穏やかになって……

 あの光の粒子が部屋を包んだとき、私まで心が軽くなったよ。

 桜良、あなたは本当に……私の大切な人だ」


桜良の頰が、さらに赤らんだ。

交花の深部で重ねてきた触れ合いの記憶が、病室での誓いと重なり、胸の奥を甘く疼かせる。


「紡……

 私たち、もっと深く繋がりたいね。

 交花の先にある満開へ……

 遥様が安心して見守れるように、ちゃんと強くなりたい」



二人はしばらく無言で手を繋いだまま、夕陽の光を浴びていた。

光の粒子が、二人の周囲で優しく舞い続け、まるで二人の絆を祝福するかのようだった。

その後、二人は病院を後にし、白百合学園へと戻った。





挿絵(By みてみん)


理事長室の奥、聖百合の間。

白百合 麗華は深紅の着物姿で、窓辺に立っていた。

桜良と紡が入室すると、麗華は静かに振り返った。


「ただいま戻りました、お母様」


桜良が深く頭を下げ、紡もそれに倣う。麗華の瞳が、二人の表情を優しく、しかし鋭く見つめた。


「どうだった? 桜庭 遥の様子は」


桜良は少し緊張しながら、しかし誠実に報告を始めた。


「遥様は……とても穏やかな方でした。

 最初は私が白百合家の者だと知って、大変恐縮されていましたが、

 紡さんと私の話を聞いているうちに、だんだん安心したご様子で……

 私、白百合の光の粒子で病室を癒しの空間に変えました。

 遥様はそれを感じて、とても感謝してくださり……

 最後に頭を下げて、紡さんを託してくださいました」


そこで桜良は、声を少し低くして続けた。


「私は、遥様の肩に触れて、強く誓いました。

 『必ず紡さんを大切にします。彼女の花を傷つけないように、全ての心と体で守り、共に咲いていきます』と」


麗華は静かに頷き、二人を交互に見つめた。

母としての温かさと、理事長としての厳しさが、瞳の奥で交錯している。


「そう……よくやったわ、桜良。紡も。

 遥。数少ない桜の能力として、注目を浴びたけど、誰かとペアを組むことはなかった、

一人っ子だからね、遥は。

次の子を産まなければなかった、

桜庭家は昔から忠実な協力血筋。

その遥の娘が今、大守り人の候補。

運命を感じるわ。

そして、遥が安心したなら、それは大きな意味を持つ。

 中東の乱れが深刻化する今、守り人の家族の心の安定も、レイラインに影響を与える……

 あなたたちの絆が、遥の心を癒せたなら、それはすでに一つの『開花』ね」


麗華の言葉に、桜良の胸が熱くなった。

紡はそっと桜良の手を握り、二人で並んで麗華の前に立った。


「お母様……私たちは、これからももっと深く、交花を進めてまいります。

 遥様が安心して見守れるように、そして世界の均衡を守れるように」


麗華は静かに微笑んだ。


「ええ……期待しているわ。

 今夜はゆっくり休みなさい。

 あなたの花は、もう戻れないところまで咲き始めている……

 大切に、ね」


聖百合の間に、淡い光の粒子が二人の周囲で優しく舞い、

退室後の温かな余韻を、静かに包み込んでいた。


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