40 富士山大噴火
洋梨子は父の死と過酷な日々を忘れようとテニスサークルでの活動、友達とのカラオケや飲み会に行くなど意図的に毎日を忙しくしてボーッとする時間が生じないようにしていた。
何もしないでいると辛いことが次々に脳裏に浮かんできて苦しいからだ。そして今は誰よりもボーイフレンドの琉生に会いたかったのだが、どういうわけか行方不明だった。
研究室のある自宅へ行ってみると、お母さんがおっしゃるには海外に長旅に出かけていて、いつ帰ってくるか分からないということだった。洋梨子はそんな話は聞いたことがなかったので、どうして急に彼女の前から姿を消したのか不思議だった。しかもメールやラインでも全く返答が無かった。
今日は洋梨子は久しぶりに佐川美都子とお茶をしている。佐川の家は一戸建てで豪邸でも何でもなくごく普通の家ではあるが、両親から受け継いだ庭はけっこう広くて一件落着してからはガーデニングに精を出していた。
佐川は
「最近は研究をちょっと休んでガーデニングにかなり没頭しているの。ねえ、ちょっとお庭を散歩しない?」
「えっ、いいんですか?嬉しいわ」
二人が歩いていると黄色い福寿草が咲いている。ワインカラーや白のクリスマスローズもたくさん咲いている。
「クリスマスローズってクリスマスに咲くのかと思ってたんですけど」
「クリスマスローズは2月から3月に咲くのよ」
「ひまわりとか普通のお花は上を向いて咲いてるけど、クリスマスローズってうつむき加減に咲いてて謙虚な感じでいいわね」
するとその時佐川のスマホが鳴った。佐川が電話に出ると彼女の顔色がみるみるうちに青ざめた。
「洋梨子ちゃん、大変よ。富士山が大噴火して、ハワイのキラウエア火山も大噴火して溶岩が大量に流れ出してるんだって。地震予知連絡会によると、どちらも地震が起こりそうな兆候は皆無だったので、こんな急な噴火はあり得ないってことらしいわ」
「佐川さん、私はもうあの過酷な日々のことは思い出したくないんですけど、実は最後の山荘での出来事の時から気になってることがあるんです」




