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82.遺書

1946年元旦 東京都 皇居


日本に帰国してすぐに悠斗に報告をしに行った。悠斗の執務室に入ると元旦の挨拶に翔も来ていたので久し振りに3人だけで集まることができた。


「アイザックはクラーラと二人で自殺できて良かったと思う」


3人で中瓶のサッポロビールで乾杯したあと、最初の話題で悠斗がアイザックの自殺について切り出してきた。

俺が気にしていると思っているのだろう。


「俺もアメリカかソ連に引き渡すよりはアイザックにとっては良かったと思う。酷い目に遭うのは確実やったもんね。誠司はあえて自殺を選択できるように二人を同じ房に入れて、拘束も解いたんやろ?俺でも思いついたら多分同じことしてたと思うし、誠司がやったことは正しいと思うで」


翔も俺がアイザック達を死なせたことを気にしていると思って、気遣うようなことを言ってくれている。この件については本当に何の感情もないのだが、二人の気持ちは素直に嬉しい。


「ありがとう。翔の言うとおりなんだ。だから、二人からそう言ってもらえると少しは気が楽になるよ。言ってなかったんだけど、アイザックの遺書があるんだ。俺たち3人に宛てたものだったみたいだから開封せずに持ってきた。俺が読み上げても良いか?」


悠斗と翔が頷いて承諾してくれたので、俺は上着の胸ポケットから手紙を取り出して、悠斗の部屋に置いてあったペーパーナイフで封筒の封を開けて便箋を取り出した。


「悠斗、誠司、翔へ。なんか3人に手紙を書くのも照れるんだけど、これが最後だから遺書だと思って書くことにしたよ。思えば僕が遅れてB.O.E.Lにログインして、ドイツでセッションに参加したことが全ての始まりだったと思うんだ。これは時間にルーズだった僕の責任だね。僕は大学に入るまで実は友達がいなかったんだ。ハーフだって言うのと、女好きとか言われて周りの男子から虐めまではいかないけど、避けられていたんだ。だから、大学に入って授業でたまたま隣の席になった悠斗に声をかけてもらって、FPS同好会に誘われたときは嬉しかったよ。それまでは全然ゲームとかやってなかったから、FPSって言葉の意味も分からなかったんだけど、毎日みんなと一緒にプレイするようになって、本当に楽しかったな。この世界に来てからは、僕の方から一方的に連絡を絶つようになって、3人を裏切ったことは本当に申し訳ないと思っている。僕が返事をしなくても3人とも何度もメッセージを送ってくれて、僕のことを心配してくれているのが凄く伝わったから、本当に辛かったな。こんなこと言ってもただの言い訳になると思うけど、ちゃんと全部読んで何度も返信しようと思ったんだよ。けど、あっちで優香達と仲間になって自分だけ裏切ることはできなかった。結局優香以外全員を裏切ることになったんだけどね。だから、善人ぶるつもりもないんだけど、本当に全部僕が悪いんだなって、誰もいなくなってから何度も思ったよ。僕がしっかりしていれば誰も傷つけることなく、皆で幸せになれたかもしれないのに、何してたんだろうね。本当はアメリカかソ連に引き渡されて裁判にかけられて、処刑されて罪を償うのが筋なんだろうけど、僕にはちょっと耐えられそうにないから、誠司には悪いけどここでログアウトさせてもらうことにしたよ。誠司も僕のことを2回裏切ったからこれで、おあいこね。だから、怒らないで欲しいな。ということだから、優香と二人で一足先にログアウトして小川先輩にも謝ってくるね。パンチ2~3発で許してくれないかな?いや、殺したんだから無理だよね。でもさ、僕が死んでも元の世界のオリジナルの僕は生きているわけなんだから、これって死んだことになるのかな?難しいことは分からないけど、僕が死んでも違う僕は生きているから皆悲しまないでね!言われなくても悲しまないか(笑) あっ、遺書に(笑)って付けるのってなんか不謹慎な気がするけど、気にしないでね。最後に、悠斗へ、さっきも書いたけど、僕をサークルに誘ってくれてありがとう!短い間だったけど、僕の人生の中で一番楽しい期間だったよ。翔へ、チームで月間ランキング8位になったときのお祝いに、皆でカラオケに行ったときに翔が酔いすぎて、全裸でカラオケのテーブルの上でジャンプして、テーブルを壊したのを今でも思い出して笑ってるよ。もし、向こうでもカラオケがあったらまた行こうね。誠司へ、助けてくれなかったから最後に言うけど、元の世界で僕が新しい彼女を作る度にひがんでいたのは知ってるからね。だから、こっちで美少女と結婚できて良かったね。でも美少女と結婚できたからって、イケメンの僕とフツメンの誠司の間には越えられない壁があるということは、忘れないで欲しいな。なんてね、色々あったけどさ、向こうで先に待ってるから、ゆっくり後からおいでよ。後始末とか迷惑かけると思うけど、よろしくね。それでチャラ。仲直りしてあげる。それじゃあ、みんなまたね! 手紙の内容はこれで終わりだ。勝手なこと言いやがって…」


テーブルに手紙を置くと同時に手紙に水滴が落ちた。何かと思ったら自分の涙だった。自分でも気が付いていなかったが、どうやら読みながら涙が流れていたらしい。顔を上げて悠斗と翔の方を見ると、二人とも咽び泣いていた。


「アイザックらしい遺書だったな」


悠斗がハンカチで涙を拭いながら言った。


「せやな。俺のカラオケの失態の話を遺書に書くのはほんまに余計やったけど」


翔のカラオケの事件は俺も覚えているが、あれは一生の恥と言っても過言ではないだろう。


「確かにあいつらしいな…」


俺が失いかけていた感情をアイザックは最後に思い出させてくれた。それから3人で遅くまでアイザックとの思い出話が続いた。


思い出話も出尽くしたところで、翔が鞄から小さな漆塗の黒い箱を出してきた。


「ずっと誠司にも見せたいと思ってたんだけど、ようやく見せるこができるよ」


「なになに?」


「まぁ、その箱開けて見てよ。」


箱を開けると懐かしいシルエットのスマートフォンが出てきた。俺が持ってきたやつとは機種が違うみたいだが、間違いなくスマートフォンだ。誰が持ってきたものだろうか。


「これ、誰の?遥さんとか?」

    

「違うんだ、これは地下の江戸城から出てきた」


「えっ?なんで?誰か先に来てたのか!?」


「その箱と一緒にあった書物に書いてあったらしいんやけど、これは織田信長が持っとったもんで、信長の死後に徳川家康が手に入れて保管しとったらしい。で、地下の江戸城に保管されとった書物を調査したところ、どうやら織田信長は未来の日本からタイムスリップしてきた中学生らしい。で、その中学生がいた世界の織田信長は弟に家督争いで負けて大名になる前に亡くなってたみたい」


「そうなの!?じゃあ、俺たちが知ってる織田信長って、別の世界から来てたの!?だって、弟殺して家督継いで上洛までしてるもんな。そうなると、俺達がいた元いた世界は既に運営の手で変えられた世界だったってことで、オリジナルの世界は更に別にあるってことになるな」


もしそうだとしたら、オリジナルの世界の歴史がどうなっているのか気になるな。


「そうだね。そうやってオリジナルの世界とは違う世界をいくつも作っているんだな。もしかしたら、俺たちが長生きしてたら、他の世界から来たトラベラーに会えるかもね」


悠斗が言うようにトラベラーに会ったら俺たちが先輩だと是非名乗り出てみたいな。


この事実は俺達3人だけの秘密にしようということになり、俺のスマートフォンと一緒に皇居の宝物殿に封印することになった。

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