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74.パリ市内

1944年1月4日 フランス共和国 パリ市


ナチスはパリに原子爆弾を設置後に、パリの環状道路沿いに壁やフェンスを建設して、パリ20区全体を封鎖し、人の出入りを規制している。

パリ市内から出入りするには、武装親衛隊が監視している全部で7つのゲートの何れかを通らなければいけないが、元々のパリ市民は壁の外に出ることは認められていない。

もし壁の外に自由に出ることが可能になれば、パリから人質がいなくなってしまうからだ。

現在、壁に囲まれているエリアでは約200万人のパリ市民が生活しており、西側連合軍によってパリ以外のフランス全土を奪還したフランス政府も、外からパリへの食料や生活物資の供給を止めることができないため、武装親衛隊は武器弾薬以外の補給には困ることがなかった。

フランス政府が200万人のパリ市民を見捨てない限りは、いつまでも占領を続けられることになる。

もちろんフランス政府もこの状況を黙って見ているはずもなく、原子爆弾の設置場所を特定して無力化するためにスパイを何度も送り込んでいる。だが、現在に至るまで設置場所の情報は掴めていない。

また、アイザックの暗殺をすれば武装親衛隊が投降する可能性があるため、フランス以外のアメリカやイギリス等の西側連合国もアイザック暗殺計画を立てている。

しかし、アイザックは特定の親衛隊員としか会わないため、直接手を下すことは難しい状況だ。そこで、親衛隊員を買収するために金や地位を約束して協力を持ちかけたエージェントは、全員その場で射殺されており、暗殺計画も初期の段階で頓挫している。

パリ市民はパリ市内を囲む塀の中では外に出る以外は、普通に生活をしても良いことになっている。ただ、ナチスに協力的な市民だけが優遇され、ナチスに非協力的な市民は親衛隊によってスパイ狩りと称して監禁や強制労働に従事させられているのが現状だ。

また、武器弾薬に関してはさすがにフランス政府から供給されるはずもないので、パリ中から集めた金属製品を溶かして、壁の内側の金属加工業者に銃弾や砲弾の製造をさせている。


アイザック達はハーケンクロイツが掲げられたブルボン宮殿を新総統官邸として使用していた。そして、毎日特にやることもないため、この日も執務室でワーグナーのレコードを聴きながら、クラーラと午後のティータイムを満喫している。


「はぁ、誠司が僕を裏切ったせいで、何もかもめちゃくちゃだよ」


「危なく二人とも死ぬところだったものね」


「それもそうなんだけどさ、もうパリから一生出られないんじゃないかって思ってるのは僕だけ?」


「先に裏切ったのは私たちなんだから自業自得よね。アイザックは誠司さんをベルリンに仕掛けたレッシェンで殺そうとしてたじゃないの」


「正論過ぎてぐうの音も出ないよ。クラーラは怒ってないの?」

    

「私はアイザックと一緒にいられるなら、どこだって良いもの。ここに来てから一緒に過ごす時間が増えたから、むしろあの人達に感謝しても良いと思っているわ」


「クラーラは随分ポジティブになったもんだね」


「アイザックのおかげよ。ありがとう」


「どういたしまして。それはそうと、さっきはここを一生出られないかもって言ったけどさ、壁の外の連中も黙ってはいないと思うから、むしろ一生パリにいたくても、いられないかもしれないよ」


「フランス政府にパリ市民を犠牲にする覚悟があるのなら、私たちもここにはいられないわね。でも、そんなことするかしら?」


「フランス政府が仕掛けてこなくても、アメリカとイギリスが何かしらしてくると思うよ。今だって、スパイを送ってきたり、親衛隊を裏切らせようとしてるんだからさ」


「親衛隊が裏切ることは絶対にないから、スパイ対策の方はしっかりした方がいいわね」


「そうだね。なにか良い方法ないかなぁ」


「マイナンバー制を導入して、市民一人ひとりを管理するのはどう?」


「あぁ、それは良いかもね。管理しやすくなるし。今思いついたんだけどパリって、僕たちの認識ではドイツの領土で、パリ市民はフランス人だけど、パリ市民をドイツ人に帰化させれば能力を使えるんじゃないかな」

    

「この能力は自国民にのみ有効っていうけど、どうしたら自国民って判定されるかは検証してみないと分からないわね」


「これ使えると使えないじゃ全く違うから、すぐに試してみよう!」


アイザック達はすぐにパリ市役所に、帰化申請の書類を用意させてた。そして、ナチスに協力的な市民の中から1人に協力させて、ドイツへの帰化申請書を提出させた。即日申請を受理して、アイザックが協力者と直接会って能力を使ってみたが効果がなかった。

主権、領土、国民があるのに何が足りないのかとアイザック達は考えたが結論は出なかった。上手くいかずに意気消沈したアイザック達は結局マイナンバー制度も導入することなく、問題を先送りにするのだった。

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