終章 その先に
それから律と紅悠は、正式な婚姻を結んだことを伝える書状をしたため、それぞれの王家に送った。
あの一件以来赤龍族の接近はぴたりと収まり、村には平穏が戻ったが、王宮ではちょっとした騒動が起こっていた。
『あの落ちこぼれの律が、傍若無人な赤龍族の一団を撃退したらしい』、と。『これはやはり、あの伝承が真実だったためではないか』と、ここのところ王宮内はその話題で持ちきりだった。
もう一つおまけに、『落ちこぼれと言われていた狐族の娘も、相当な力で応戦していた』、とも。
「まぁ…王宮では、そんな噂が流れているのですか」
静かな春の夜、満月が照らす縁側に、紅悠と律が並んで腰かけていた。
「翠から聞いた話だ。明日の来訪は、なるべく人目に付かないようにした方がよさそうだな」
「そうですね…」
明日、二人は皇帝に面会し、改めて婚姻を報告することになっている。翠が気を利かせて、裏門の門番に話を通してくれているそうだ。
万が一にも、王宮の噂好きに見つかろうものなら、伝承の真相を根掘り葉掘り聞かれ、いつ解放されるか分からない。
「そんな伝承でたらめだと言ったところで、誰も納得しないだろうしな…」
「ええ…そもそも、あの伝承は一体、何だったんでしょう?」
王宮の王族たちは、紅悠と律が結ばれたことによって力が覚醒したと思い込んでいるようだが、それは二人が落ちこぼれだと誤解されていたから。
紅悠は本来の力を公の場で見せていなかっただけだし、律は激務のために、一時的に霊力が減退していただけだ。
小首を傾げていた紅悠だが、不意に吹き付けてきた夜風に身を震わせた。
そんな様子に、律は紅悠の身体を羽織の中へと抱き寄せる。
「明日から、しばらく挨拶回りだ。狐族の国への長旅もある。体調には気を付けるんだぞ」
紅悠も律の肩に、そっと頭を預け。
「ありがとうございます、旦那様」




