9-10 答え
――静寂が訪れた、木々の狭間で。
律がそっと、紅悠から身体を離した。
「…すまなかった。紅悠のことを、つい、自分のもののように…」
そう言って背を向ける律の後姿を、紅悠もじっと見つめる。表情こそ分からないものの、耳の先まで真っ赤に染まっているのが見て取れた。
「紅悠を、ここに縛り付けるつもりはない。…俺は、紅悠が幸せなら、それでいい」
「…縛り付ける、なんて…」
紅悠が、驚いて呟く。
「私は…私がここに居たら、旦那様のご迷惑になるかと思って…」
今度は律が、驚いて振り返った。
「迷惑なわけがないだろう。俺はいつも、紅悠に支えられてばかりで…紅悠にしてやれることなんて、何もないと」
「私…私は」
紅悠はふるふると首を振った。涙に詰まって、言葉が上手く出てこない。
「私は…旦那様のことが好きです。旦那様のお傍に、居たいんです…!」
それが、たった一つの紅悠の願い。
望んではいけないと、心の奥に封じ込めた、唯一つの願いだ。
想いとともに溢れた涙に、両手で顔を覆う紅悠を。
気付けば律は、両腕で強く、抱き締めていた。
「…紅悠。其方を、愛している」
金色の髪を優しく撫で、律は泣きそうな顔で笑った。
「ずっと、怖かったんだ。紅悠の心を知ることが」
律が、紅悠の首筋に顔をうずめてくる。律の吐息を感じながら、紅悠はそっとその背中に手を回し、ぎゅっと抱き返した。
互いに互いの幸せを想うあまり、すれ違っていた二人。心の底では、こんなにも、求めあっていたのに。
やがて律は、ゆっくりと腕の力を緩めると。
「紅悠。これからも俺の妻として、ずっと隣に居てくれないか」
藍色の双眸が、真っ直ぐに紅悠を見つめてくる。
「…はい」
その瞳に向けて、紅悠はしっかりと頷いて見せると。
――二人は、長い口付けを交わしたのだった。




