9-9 答え
――藍色の稲妻が、その手を阻むように空を裂いた。
強烈な光に紅悠は目を覆い、次に目を開けた時には――
「紅悠に触れるな」
耳元で聞こえた声に、身体を包む温かさ。
紅悠の肩を、しっかりと抱きかかえ――律が、煉と対峙していた。
「この村の首長、律だ。これ以上の無法な真似は許さない」
律がそう言い放つなり、手下の男たちが明らかに動揺し始める。
「おい、どういう事だ?ここの村は、首長がすっかり落ちぶれてるから楽勝って話だったじゃねぇか」
「だがさっきの稲妻…あんなの、相当な霊気がねぇと出せねぇぞ…!」
そんな中、煉だけは余裕の表情を絶やさぬまま。
「“無法”とは?どうせあんた、紅悠とはもうすぐ離縁するんだろ。俺はただ、独り身になった女を貰い受けるだけだぜ?」
対する律も、煉の眼を真っ直ぐに見つめ返した。
「婚姻を解消するとは、一言も言っていない」
その言葉に、紅悠は思わず律の横顔を見上げる。その藍色の瞳に、怒りの炎が滾るのを、紅悠は初めて見た。
「…ならば、力で奪い取るまでよ」
煉が右手を翳すのを見て、紅悠の身体がびくりと震える。
そんな紅悠の肩を、律はさらに強く、抱き寄せた。
「紅悠は俺の妻だ。…守るためなら、容赦はしない」
刹那。
煉が突然直立不動になったかと思うと、その身体がゆっくりと、宙に浮き始める。
煉も必死に抵抗しているらしく、額にいくつもの筋が浮き立っているが――律の霊力が、その全てを封じ込める。
それは、紅悠がかけたものよりも格段に強力な金縛り。霊気で全身を圧し潰されるような苦痛が、煉を襲っていた。
「れ、煉様…!」
「嘘だろ…」
目の前の光景に、手下たちは腰を抜かす寸前のようだ。
「其方たちも、同じ目に遭いたくなければ今すぐ去れ。そして二度と、この村には近寄らないことだ」
すると忽ち、手下の男たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。
それを見届けてから、律は不意に術を解く。
地面に放り出された煉は、まだ苦しそうに喉元を押さえて蹲っている。肩で息をし、肌からは滝のような汗が吹き出し始めた。
「…其方の部下たちは、お世辞にも忠誠心が厚いとは言えないな。これではとても、王宮で人の上に立つことは出来ない」
「てめぇ…」
煉は眼光鋭く律を睨み上げるが、それ以上は声が続かないらしい。
「力で制圧していては、本当の強さは手に入らない。それが分かったなら、もう領地の略奪など考えるな。…王宮に目を付けられていること、其方も気付いているだろう?」
「くっ…」
煉は、悔しそうに舌打ちすると。
やっとの思いで身体を起こし、よろけながらも里山の奥へ走り去って行った。




