表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
42/58

 8-3 試用期限



*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀



「律、ここに居たのか」


王宮と別棟とを結ぶ渡り廊下で一人佇んでいた律に、翠が駆け寄る。


「藍龍族のお偉い方は、随分とお暇なようだね。また、いらぬお節介のために君を呼び出したんだろ?」


翠の言葉に、律は思わず苦笑する。


「全く、いつもながら情報が早いな」


「ここのところ、王宮でくだらない噂が出回ってたからね。粗方想像は付くさ」


この渡り廊下は、今やすっかり寂れた古文書保管庫へ通じるもので、仕事柄使うのは翠くらいだ。


一人で考え事をするには静かでちょうどいい場所だと、いつか律にも話したことがある。


「しかし、藍龍族の連中も利口とは言えないね。結婚するか否か、判断するのは当人同士のはずだ。そうきっぱり言ってやればいい」


「勿論、そう言ってさっさと出て来たさ。そもそも紅悠は落ちこぼれなんかじゃない。上層部からとやかく言われる筋合いなんてないんだ」


「…ふむ。そう言う割には、どうも浮かない顔をしているね?」


翠が律の顔を覗き込むと、律は溜息を一つ吐き、俯いた。


「…上から何と言われようと、俺は構わない。だが、この先紅悠が、心無い噂にずっと苦しむことになるとしたら…」


「そんな噂、連中だって紅悠さんの仕事振りを知れば何も言えなくなるさ。気にすることないんじゃないか?」


翠が軽やかにそう返すものの、律の表情は晴れない。


「おや。まだ何か、気がかりなことでも?」


怪訝そうに尋ねると。


「…このまま龍族の国に居ることが、果たして紅悠にとって幸せなのか?」


石造りの渡り廊下に、乾いた春の風が吹き込む。


「両皇帝の間でどんな密約が交わされたか知らないが、これは明らかに政略結婚だ。紅悠は、両国の人身御供にされたようなものだろう。…俺はともかく、紅悠がそんな仕打ちを受ける理由なんてない。狐族での誤解さえ解ければ、もっと条件の良い縁談だって…」


その言葉に、翠は呆れたように口を開けて、やれやれと肩を竦めた。


「…全く、君の悪い癖だね。相手の気持ちを推し量ってばかりで、いつも自分の気持ちに蓋をしてしまう」


困ったように笑いながら、律の横顔に語り掛ける。


「紅悠さんがどう思っているかなんて、本人に聞いてみなきゃ分からないじゃないか。…それとも、紅悠さんから『国に帰りたい』とでも言われたかい?」


「…いや、そういう訳では」


すると、翠はにこりと笑みを浮かべ、手摺に両腕でもたれかかった。


「じゃあまずは、紅悠さんの気持ちをきちんと確かめなきゃね。その上で、君の気持ちをちゃんと伝えること。『これからも一緒に居てほしい』ってさ。」


隣で律も、同じく手摺に身体を預け。


「そうだな…」


視線の先には青い山脈が連なる。あの峰を超えた先には、紅悠が生まれ育った狐族の国があるはずだ。


そして律は翠と別れ、王宮を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ