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 8-2 試用期限



*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀



(ああもう、靴が土で汚れてしまったわ。虫も多いし、これだから田舎は嫌なのよ)


早く王都に着かないものかと、ゆっくりと流れていく車窓の景色を恨めし気に眺める明。


まあ、これも全ては律のため。この理不尽な結婚から律を解放できるなら、この程度の苦痛は我慢できる。


王宮では、そろそろ藍龍族の緊急会合が終わった頃だろうか。恐らくは、律と紅悠の結婚の取りやめが決議されているはずだ。


藍龍族王家を動かすのは、簡単だった。


明はただ、青龍族の上位王族である叔父に、こう話しかけただけだ。「例の狐族の落ちこぼれのこと、ご存じでしょう?藍龍族の皆様ったら、なんにも知らずに嫁として受け入れるつもりのようよ。物知りな叔父様と違って、随分と間抜けですわね」


この叔父がまた大の噂好きで、その上人一倍矜持が高く、周りの王族たちをどこか見下している節があった。


明の予想通り、叔父はこの話を王宮のあちこちで触れ回り、藍龍族は皆の笑いものになった。


王宮での立場が危ぶまれる事態に、藍龍族たちは早々に行動を起こし、今日の緊急会合に至ったのだ。


(藍龍族の皆様も、ようやく事の重大さに気付いてくださったようね)


そもそも、藍龍族は律のことを軽んじすぎている。律はいつまでも、あんな小さな村の首長におさまっているような器ではないのだ。


(律様がどれだけ優秀か…私が一番よく理解していますもの)


互いの父親が王宮で近しい仕事をしていたことから、翠と明、そして律の三人は、子供の頃から一緒に過ごすことが多かった。


律の優秀さは、当時から抜きんでていた。自分に厳しく、学問も霊力も常に翠と首位を争う一方、幼い明に対してはとても優しく、誠実だった。明の中で律が憧れの存在となるのに、時間はかからなかった。


しかし、そんな律には一つだけ、致命的な弱点があった。出世欲の強い王族ばかりの中、謙虚で優しい律は、自己主張が何より苦手なのだ。


だからこそ明は、そんな律を支えるため、王宮入りを決意した。


龍族王家では女性でも王宮へ上がることを認められているが、元々明は政治に興味など無かった。しかし、律の為となれば話は別だ。


心に火が付いた途端、明は猛勉強の末、女性としては最年少での王宮入りを果たしたのである。


律のような、優秀で思慮深い王族が、国政には必要なのだ。今現在王宮を闊歩しているのは、皆自分の利益のことしか頭にない連中ばかり。そんな上司たちに日々辟易しつつも、明は律を出世させる為に、陰ながら手を回してきた。今回の件もまた然りだ。


(あんな小娘に、律様の未来を潰されてたまるものですか。律様は、私が守ってみせる…!)


藍龍族王家全体から反対されれば、流石の皇帝も無視は出来ない。このまま律に結婚を強いることもなくなるだろう。


馬車はやがて、石造りの王都の道に足を踏み入れ、王宮へと続く大通りを真っ直ぐに進んで行く。


しかし一方で、件の藍龍族の会合は、明の予想とは違った結末で幕を下ろしていたのである。


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