表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
40/58

八.試用期限


弥生。村では桃の花も咲き始め、風も少しずつ春めいてきた。


律と紅悠の“お試し結婚”も、期限までもう一か月を切った頃。


今日、律は王宮からの呼び出しを受け、朝から出掛けている。


屋敷で一人静かに仕事に向かっていた紅悠だったが、静寂は不意に破られた。


「御免くださいませ。」


玄関から響く女性の声。筆を置いた紅悠が、急いで廊下を駆けて行くと。


「明様?」


扉の向こうに居たのは、御者を伴った明だった。腕組みしながら、紅悠をじっと見据える。どうやら今日は、翠の姿は無いようだが…


突然のことで目をぱちくりさせながらも、紅悠は明に一礼し。


「いらっしゃいませ。旦那様にご用事でしょうか?生憎今は、王宮に出掛けておりますが…」


「存じておりますわ。今日は、貴女にお話しがあって来ましたの」


「私に…?」


戸惑う紅悠を前に、明は大仰に溜息を吐いてみせる。


「その様子じゃ、何も分かっていらっしゃらないようね。今日、律様が王宮に呼び出されたのは、貴女のせいですのよ?」


「え…?」


紅悠の心臓が、どくんと大きく脈打った。


「失礼ながら貴女、狐族では落ちこぼれと言われていたそうね?今や王宮中で噂になっておりますわ。藍龍族王家の方々は、このまま律様と貴女が結婚してしまえば一族の恥だと、心を砕いていらっしゃるようです」


視線を横に流しながら、肩にかかる巻き毛を指に巻き付ける。


「律様の王族としての地位も、揺らぎかねませんわ」


金の瞳が、ちらりと紅悠を一瞥し。


「試用期間が終わったら、すぐに狐族へお戻りなさい。貴女に、ここに居る資格はありませんわ」


冷ややかにそう言い放ち、明は靴音を響かせながら、門の外へ消えていった。



一人残された紅悠は、明の姿が見えなくなってもなお、玄関から動くことが出来なかった。


どうして、気付かなかったのだろう。この結婚で律に迷惑がかかることなど、想像するに容易いだろうに。


理由は恐らく、律の優しさだ。紅悠を受け入れ、尊重してくれる強さと、いつも傍に居てくれる温かさ。


律と過ごす毎日の中で、紅悠はつい、忘れてしまっていた。自分は“落ちこぼれ”だということを。


どうして、望んでしまったのだろう。このままずっと、律の隣に居たい、などと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ