7-6 動き出す思惑
憂いを帯びた視線を投げかけてくる明と、呆れたように瞬きする凛。
しかし凛はすぐに気を取り直すと、強い瞳で明を見つめ返した。
「あのねぇ、王族だか何だか知らないけど、私はこれまでもずーっと律の世話焼いてきたの!じゃなきゃあいつ、今頃とっくに過労死してるよ?むしろ感謝してほしいくらいなんだけど!」
「なっ…!?」
思いもよらぬ反撃にあったためか、目を見開く明の前で、凛は腰に手を当てて。
「それに、私は医者だから。患者が病気で苦しんでるのに放っておけるわけないでしょ?これからも、呼ばれればいつでも診察に来るよ」
そう言い切ってから、凛は明に背を向けて。
「じゃ、もう診察に戻らないと。…あ、そうそう」
凛は何か思い出したかのように、くるりと振り返り。
「律とは、腐れ縁以外の何物でもないから。その点はご心配なく!」
にっこり笑ってそう言うなり、明はみるみる頬を紅く染めて、微かに震えてさえいるようだった。
廊下を小走りで進みながら、凛はしてやったりとばかりに笑みを浮かべ、上機嫌で律の部屋へと戻っていった。
凛から一通りの話を聞き終えて、紅悠は。
「そんなことがあったんですね…」
凛も苦笑しながら、お団子をもうひとつまみ。
「あんまり上から言ってくるもんだから、私もついカチンと来ちゃってさ。…でも、きっとあの子も、律を取られたくなくて必死だったんだよね。だからてっきり、紅悠のことも目の敵にしてるんじゃないかと思って」
言われてみれば、先日明が紅悠に向けてきた視線は、どこか冷ややかさを感じたような。
まあそんなこと、“落ちこぼれ”の紅悠からすれば慣れっこなので、気にも留めていなかったが。
「そうだよね、いくらあの子でも、奥さん相手に文句なんて言えっこないか!」
可笑しそうに笑いながらそう言った凛に、紅悠はゆっくりと首を横に振る。
「まだ、試用期間中ですから。正式な妻ではありません」
「もーっ、またそんなこと言って!」
紅悠の前で、凛は大きな猫目を吊り上げた。
「律には、紅悠が必要なの!紅悠は妻としてどーんと構えてればいいんだよ!私が言うんだから間違いなし!」
そう、きっぱりと言い切る凛に、紅悠はくすりと笑みを零し。
「ありがとう、凛さん」
言いながら、凛の湯呑にお茶のお代わりを注ぐ、紅悠であった。




