7-2 動き出す思惑
「――やれやれ。紅悠さんが察しのいい奥さんで助かったよ」
それからすぐ律の部屋にやって来た三人は、各々畳の上に腰を下ろして寛ぎ始める。
「これでやっと、邪魔者はいなくなりましたわね!」
先ほどまでとは打って変わり、嬉々として声を上げる明。
「明、そんな言い方しない。僕はただ、律に“仕事の話”をしたかっただけなんだから…」
溜め息混じりの翠の言葉に、律も視線を上げると。
「…それで?その、“仕事の話”というのは?」
すると翠も、律に改めて向き直った。
「…少し、心配になってね。例の、“煉”とかいう赤龍族の件だ」
“煉”。それは今まさに、律たちが警戒している赤龍族王家の青年の名だ。翠によると、どうやら彼の行動は、ここのところ目に余るものになっているらしい。
「この数か月で、いくつもの村が統治権を奪われている。例によって、“公戦令”を悪用した手口でね」
“公戦令”とは、龍族の国家における法令の一つ。王族同士の主張のぶつかり合いを、互いの力量を比べることによって解決するというものである。
「まったく、この時代遅れの悪法のために、今やどれだけ国が混迷を極めていることか…」
言いながら、翠が眉間を押さえて目を瞑った。
公戦令が発出されたのは、まだ龍族の国が造られて間もない頃のこと。国を統治するうえで、王族内の序列がはっきりしていなかったため、実戦においてより力のある者の意見を優先させる習慣があったのだ。
つまり、皇帝を始めとする王族の役職が整備された今となっては、ほとんど形骸化した法令なのである。
しかし近年、王宮からも忘れ去られつつあったこの公戦令を根拠として、下級王族たちが領土の奪い合いを始めてしまったのだ。
「今、僕の方でもこの法令の廃止に向けて動いてはいるが…何せ、上には頭でっかちな連中が多くてね。ちょっと苦戦してるんだ」




