七.動き出す思惑
首長邸の庭では、梅の花が見頃を迎えていた。
仕事に一区切りついた律と紅悠は、二人で庭に出て束の間の花見を楽しんでいる。
木の真下から枝を見上げる紅悠に向け、律がふと手を伸ばし。
その金色の髪に付いた白い花びらを、そっと摘まみ上げた。
律の手の中の花びらを見つめて、二人はどちらからともなく笑みを零す。
もうすぐ、村塾の授業を終えた子供たちが、元気にやって来るだろう。そんな、穏やかな昼下がりのことだった。
「律様、紅悠様!お客様がいらっしゃいましたよ」
縁側から聞こえた声に、二人が振り返る。
圭が手招きすると、廊下の奥から現れたのは。
「やあ、律。お邪魔させてもらってるよ」
「翠?」
律に向けて右手をあげ微笑む翠と、その後ろで何故か身を潜めるようにしてこちらを伺う、明の姿。
「急に訪ねてすまない。仕事でちょうど通りかかる用事があってね。…おや、そちらが噂の、奥方様かい?」
縁側に歩み寄る律と紅悠を、翠が交互に見やる。
「ああ、妻の紅悠だ。」
そう翠に返した後、律は紅悠に幼馴染の兄妹を紹介した。
「紅悠さん、か。初めまして。律共々、どうぞよろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
深くお辞儀する紅悠に対し、翠はにこやかに微笑みを返したが、明は軽く横目で見ただけでそっぽを向いてしまった。
「さあ皆さん、こんなところで立ち話もなんですから、居間でお茶にしましょう。ね?」
そう言う圭を、翠は慌てて引き止める。
「ああ、圭さん、僕らにはどうかお構いなく。どうせすぐに出なきゃならないんだ」
「そうですか?でも、折角王都からいらしたのに…」
「いえいえ、僕らはただ、“律の”顔を見に来ただけですから」
戸惑う圭に、相変わらず笑顔を絶やさない翠。そんな様子を前に、紅悠は。
「圭様、ここはお言葉に甘えさせていただきましょう。もうすぐ子供たちもやって来る頃ですし」
そう言って圭を宥めると、紅悠は次に律を見やる。
「旦那様、子供たちは私と圭様で見ておきますので、お客様をお願いしてよろしいでしょうか?」
「分かった。よろしく頼む」
律はひとつ頷くと、翠と明を連れて廊下の奥へ消えていった。




