6-6 落ちこぼれの花婿
首長邸の裏から繋がる獣道を少し登った先に、木々が開けた場所があった。
そしてその場所には確かに、沢山のフキノトウが芽吹いていたのだった。
紅悠は嬉々として、早速フキノトウを摘みとり始める。律も手伝って、あっという間に風呂敷いっぱいのフキノトウが収穫できた。
大満足の紅悠は、律と二人巨樹の根元に腰を下ろす。
「裏山にこんな秘密基地みたいな場所があるなんて、知りませんでした」
「首長になりたての頃、気分転換に散歩していて見つけたんだ。もう随分来ていなかったんだけどな」
鬱蒼と茂る木々の中に、ぽっかりと穴が開いたような空間。
律はふと、紅悠に向けて人差し指を立ててみせると。
「仕事を抜け出したこと、弦には内緒だぞ?」
いたずらっぽく笑う律の瞳に、紅悠の鼓動が高鳴る。
――こんな、無邪気な顔もするんだ…
頬を染めた紅悠が俯く中、律は木の幹に背を預け、空を見上げた。
「…ひとつ、紅悠に聞きたいことがあるんだ」
律の言葉に、紅悠はその横顔をそっと見やる。
「狐族での、其方の噂を聞いたことがある。『ろくな霊力を持たない、とんでもない落ちこぼれ』だと。…だが、ここで紅悠を見ている限り、とてもそうは思えない」
日々の結界の精度は勿論、先日桜から落ちた子供を助けた話も、圭から聞いている。“落ちこぼれ”どころか、龍族の王家の中で比較しても、確実に上位階級に食い込めるほどの実力だ。
「何故、紅悠が狐族で、そんな理不尽な扱いを受けていたのか。そして何故、紅悠はそんな仕打ちに、黙って耐えていたのか。その理由を、聞かせてくれないか。」
藍色の瞳に、真っ直ぐに見つめられて。
紅悠は、微笑みながら、力なく首を横に振った。
「…私が、“落ちこぼれ”なのは事実です。――私の心が、弱いせいで」
律がじっと耳を傾ける中、紅悠は狐族における自身の境遇を、語り始めた。




