六.落ちこぼれの花婿
卯月、一段と冷え込む晩冬の早朝。
今日も律は早くから庭に出て、槍の鍛錬をしている。
以前は夜中まで仕事に追われていたためか、朝になっても身体が重くて仕方なかった。しかし、今や村の仕事の大部分を紅悠が担ってくれており、律も夕餉前までには、一日の仕事を終えられる。
お陰で睡眠時間もしっかり確保できているし、長い間疎かにしていた瞑想や槍の鍛錬も、再開する余裕が生まれた。
「旦那様!」
縁側から聞こえた紅悠の声に振り返る。
「朝餉の準備が出来ましたよ!」
「分かった。すぐに行く」
手拭いで汗を拭きながら、律は屋敷に戻っていった。
「旦那様は、こんなに寒い朝でも槍の稽古をなさるんですね」
二人で朝食をとりながら、紅悠が話しかける。最初の頃は紅悠のほうが早起きだったが、今では律が先に起きて素振りを始めているのだ。
「一日でも休むと身体が鈍るんだ。これまで長い事怠けていたから、感覚を取り戻すのが大変でな」
味噌汁を手に、律が苦笑する。鍛錬を再開して以来、何度か弦に手合わせを申し込んだが、ものの見事に完敗してしまった。
身体はまだまだだが、仕事の負担が軽くなったと同時に、霊気はみるみる回復した。やはり紅悠の言う通り、気付かないうちに無理をしていたのだろうと、今となっては痛感している。
「…そういえば、手入れ用の丁子油が切れそうだったな」
ふと思い出し、律が呟く。
「それなら、今日市場に行く用事がありますので、買ってきましょうか?」
紅悠が言うと、律も笑顔で頷いた。
「そうしてもらえると助かる。鍛冶屋に行けば置いているはずだ」
「分かりました。午後から行って参りますね」
こうして、今日も二人は各々仕事に取り掛かるのだった。




