5-3 落ちこぼれの花嫁
「――!」
澄んだ空気に、律は思わず足を止め、室内を見回す。
清めは部屋の隅々まで行き届いており、何より部屋中に、清浄な霊気が満ち溢れていた。
「何か、至らない点はありますでしょうか?」
横から紅悠が、不安げに律を見上げてくる。
「…いや、これなら何も問題ない。結界の霊力も十分だ」
正直言って、予想以上の出来栄えだった。
清め作業はまだしも、最後に霊気を注いで結界を張り直す段階では、力不足があれば律が手を加えるつもりでいたのだが。
紅悠はほっとしたように笑顔を浮かべて。
「よかった…!では旦那様、次のお仕事をお申し付けください」
親から褒められた子供のように嬉しそうな紅悠をみて、律も顔を綻ばせながら、二人は奥の間を後にした。
それから律は、村の簡単な財務計算を紅悠に依頼したが、紅悠はこれも手際よく片付けてしまった。
結局、紅悠はこの日のうちに租税管理と書庫の資料整理まで完了させ、今はいつも通り夕食の準備に取り掛かっている。
仕事が一段落したところで、律は先ほどまで紅悠が作業していた書庫を覗いてみた。
(あれだけ雑然としていたのに――書棚ごとに、きちんと整理されている)
歴代の首長たちが積み重ねてきた、大量の公文書が乱雑に詰め込まれていた書棚は、資料ごと、年代ごとに札で表示され、どこに何の資料があるか一目瞭然だった。
これなら、仕事に必要な資料をいちいち探す手間も省ける。
政治を知らない人間がこの大量の書類を見ても、どれが何の資料かさっぱり分からないだろうに――この短時間で、完璧に分類してしまうとは。
書庫を出て廊下を歩きながら、律は。
(財務や税務の知識も、しっかり身についている。それに…)
あの、見事な結界の形成。そして、律の風邪の回復を早めてくれた霊気の持ち主も、紅悠だったとしたら。
(紅悠は何故…狐族で、“落ちこぼれ”などと呼ばれていたんだ?)




