七話 戦いの灯火
聖戦。
国の在り方を決める際に行われる決闘らしい。
「聖戦は簡単に言えば選んだ代表が戦う。シンプルな話ですが、これで決まれば覆せません。負ければ国家反逆として死罪になります」
ナイラ様の部屋で俺たちはそう話していた。
広い部屋には可愛らしい小物がたくさん置いてあるが、それがまたこの話と全くマッチしていない。
負ければナイラ様は死罪になる。
それなりのリスクだ。
「通常は三対三の勝ち残り戦が基本ですが。……お姉様が聖戦を口にした以上何か狙っていると考えるのが大事です」
気丈に振る舞うが、俺たちが負ければ死ぬ。
その事実はナイラ様に重くのしかかっているだろう。
「そうなのね。世界が出るのは確定でしょ。残りは冷静に考えればレイオンとアナシスだろうけど」
カレンが顎に手を当てて俺を見る。
いや俺が言い出しっぺだから、全然気にはしてない。
……ただ絶対に負けれない。
こいつらを傷付けられないように、その為に俺が全て倒す必要がある。
背負い込みすぎと言われるかもしれないけど、俺はどうしてもそれが嫌だった。
「魔王は負ければ消える。魔王が全員が出るのは避けた方がいい」
「そうね。じゃあ私が出るという話で良いのかしら?」
「アナシス。お前は私の話を聞いていたのか? 私が出るに決まったるだろう!」
話が噛み合わない二人。
何なの? 出たがりなの?
「私が出たいです。勇者には怨念に近い恨みがありますので」
リザがおずおずと手を挙げた。
神器と呼ばれたその弓は最近ますます破壊力を増している。
弓を愛おしげに眺めながら、リザは確固たる意志でそう俺を見た。
「分かった。俺ともう一人はリザでいこう。あと一人はアナシスかレイオンか。カレンでもエクシスでも良いぞ。勝ち抜けだろ? 俺が全部倒せば良いんだし」
「不安そうな顔しながら言ったって説得力ないわよ! ちょっとだけ、カッコいいけど……。でもそうね、今回は私はパス。勇者に対して気配遮断とかで倒せる気がしないもの」
「私もちょっと無理そうですね。対魔法のスキルとかあるかもしれませんし」
うーん。
腐っても勇者という事か。
相手側に関してハイシュバル一人しか分かっていないのも、正直言うと痛手ではある。
三人なら間違いなく『色』みたいな魔物組合の暗部も出てくるだろう。
とりあえずカレンとエクシスにはこの分からない部分を埋めてもらう仕事を頼むとするか。
「時空間魔法は使えないかもしれないけれど、魔法兵器とか出せるのだけれど」
「私だってまだガルティンを使っていないぞ! この剣が勇者に遅れをとる訳にはいかん」
「太陽剣ガルティンね。確かにそれは凄いのだけれど、私の魔法を全て受け切れるのかしら?」
「お前らちょっとストップ! ナイラ様困ってるから。超困ってるから」
ナイラ様は俺たちのやりとりを困惑した顔で見つめる。
いや喧嘩とかじゃないから大丈夫ですよ。
割といつもの事なので……。
「闇野様は怖くないのですか? 負ければ消えてしまうかもしれません。頼んだのは私ですが、その……」
「いやいや、超怖いですよ。怖いですけど、このままじゃ世界を壊せないですから。俺の目的はここから果たすつもりです」
「世界を壊す?」
何を言っているのか、そんな感情が伝わってくる。
いや、そうだよね。
俺がもしこう言われてても意味が分からないからね。
「魔王が絶対負け、魔物が管理されて、勇者にも自由がなくて、勇者が絶対の正義で悪行も許される世界。こんな世界間違ってると思います」
部屋にいる全員が黙って俺の話に耳を傾ける。
「俺は消える事なくちゃんと生きてたい。死んでこの世界に来てから、そう強く願うようになりました」
「まさか、転生者ですか。闇野様は」
「そうです。生き返ったと思ったら死ぬ為に生まれたんですよ。笑えますよね。でも、魔王にならなかったら、こんな強く何かを成し遂げたいと思えませんでした。始めはただ理不尽な事に愚痴を募らせて……いや、今もそうか。まぁ、生きる為には世界を変えないといけませんから」
「本当に、お強いのですね。何だか皆様が闇野様を慕う理由が分かりました」
まだ二十にもなっていないだろう。
ようやく年相応の笑顔をナイラ様は見せた。
「だから、俺たちが勝ったらここから発信してやりますよ。魔王だって魔物だって、エルフだって元勇者だって、ちゃんと生きて良いんだって。例えそれが今は認められなくても、いつか認められるように」
「そうですね。その生き方は私にしても希望になります。勝ちましょう!」
「で、ハイシュバル以外に手筈は整ったの?」
「アビー様、抜かりはありません。不屈王と『色』の黄はこちらに移動中です」
地下の部屋。
そこに女王アビーと臣下の男が一人話をしていた。
反響する声も気にせずに、二人は話を進める。
「ナイラ。絶対に後悔させてやる……! あの子の首が胴から離れるのが楽しみだわ」
卑しく笑うアビーの顔が暗闇に浮かぶ。
「二位だか、四位だか七位だか知らないけど。ハイシュバルが負ける訳ないんだから」
絶対の自信と盤石な布陣で第一王女は相手を迎え撃つつもりだった。




