六話 激突する女王
「どうしてなのよ! 始末するように言ったであろう!」
大広間の扉の前に立つ俺たちにも聞こえるような焦りの声が聞こえた。
ガラン、ガッシャンと物が崩れているようだ
こんな小物臭いワンシーンがあるだろうか。
……物に当たるのはやめような。
「無理だったようです! アビー様!」
「どうして生きてるの! クソッ……失敗した門兵は牢にでも入れておくのね!」
物騒な話が聞こえてきた。
ここで聞き耳立てるのも悪い話だが。
「闇野、扉に耳を当てても意味はないぞ。ここまでしっかり聞こえてくるのだからな」
レイオンはくすっと笑って扉を見つめた。
「そうだけど。これよくあるお約束的な、ね?」
「それをやるなら、その扉の下を犬の様に覗いて下さい」
「なら、無茶をする世界さんには首輪などをつけるのは?」
エクシスもリザもやはり俺の行動は危険だと言って少し辛辣だ。
俺、首輪の趣味はないですよ。
そしてそれよりも怖いのは、アナシスとカレンだった。
刺すような視線を後ろから浴びせ続けて、ちらりと窺えば酷くむくれた顔をしている。
「世界。あんたってどこか甘いわよね」
「……そうか? 俺に裁かれるより多分アビー様とやらに罰受ける方が辛いと思うけど」
「世界君は考えているのか、それとも何も考えてないのか。全く分からないのだから」
ボソボソと喋る俺たちにナイラ様はジャスチャーで静かにの合図を出す。
「闇野様! もう無茶はしないで下さいね? 私は本当に驚いたのですから」
めっちゃ説教される。
いや、だって急いでるって言ってたから……。
「だーかーら!」
扉に近いてくる声と足音。
ここからは、ナイラ様の指示に従うだけだ。
話せと言われれば話すし、黙れと言われれば黙る。
ああ、これなら猿でも出来るし超簡単だな。
「……! あらナイラ、御機嫌よう。いつからここに?」
「たった今ですよ、お姉様。紹介致します。こちら私の客人です」
「国に入ったとは聞いていましたよ。これが魔王達ですか」
いやあ、見るからに性格きつそうだな。
鋭く厳しい吊り目に、怒りによる歪んだ口。
何より華やかな赤のドレスは攻撃的な印象がある。
「それについてお話があるのですが。お時間はあるでしょうか?」
「おや、こちらとしても色々と聞きたいわね。広間にどうぞ。そこの者、話をするのであいつを呼んできなさい」
廊下を慌てて通り過ぎようとした女性に声を掛けて第一王女は、傲慢な態度で頼み事をした。
どうしてだろう、その頼み事に関しては全く良い予感がしない。
「さて、ナイラ? お話とは?」
俺たちは椅子すら用意されずただナイラ様の後ろで立っていた。
客人なのにそんな扱いなんですね、コンチクショウ!
「お姉様、この国に魔物は必要です。そこに新しく管理する必要などないのではないでしょうか。勇者も別にこの国から輩出する意義を感じられません」
「随分と上から言いますね、ナイラ。この国に魔物は必要ですよ? ええ! けれど、全ての魔物を悪とする人だって多くいます。この国を発展させるには魔物ではなく、勇者によって正義の国へ変える必要があると言っているのです」
こいつもそうか。
鏡で見れないけど、今の俺はうんざりとした面持ちをしてるだろうな。
この王女が言う必要、それは正義に負ける意味としての必要だ。
礎になって消えろと、そう言いたいのだろう。
「ならば、何の為にお父様がこの場所を守っていたのか! 死して間もないのにその意向に反旗を翻すおつもりですか!」
ナイラ様は悲しさと悔しさと怒りと、複雑に混じった感情を制御出来ずにいた。
「王は死んだ。それによって国が変化するのは摂理です」
部屋の外から声が聞こえる。
いけ好かねぇ、爽やかな声だ。
「その通りです。ハイシュバル、こちらに」
「ナイラ姫様、御機嫌よう。勇者のハイシュバルです。覚えて下さっていますか? そして後ろの……ああ、あれはどうでも良いか。死ぬ為に存在してる者たちには興味はないので」
金の髪に、青の綺麗な服の上から目線のオトコが面倒くさそうにこちらを見た。
こんな失礼な初対面なんて、こっちの世界に来た時以来かもしれない……。
エクシスには殴られたし、カレンには殺されかけたあの時よりも、なお印象は最悪だが。
どうでも良いのはこっちもだけど、その髪をかき上げる仕草とかお決まりすぎて、リアクションしにくいわー。
んでから、そのフサフサの金髪マジで禿げろ。
「王は死にました、が! その意向を貫くのがこの国の在り方です。……所詮義理の姉。この話どうしても私は納得出来ません」
「お待ち下さい、ナイラ姫様! ……おっと、何をするつもりだい。僕に気安く触らないで欲しいな」
「私とて別に触れたくはないが。ナイラ様に強引に触れようとした、お前のその手が気に食わないのでな」
レイオンが、触れようとしたハイシュ何とかかんとかの手をはたき落とした。
いいぞ、もっとやれ!
「それに、一国の王女として私も言わせてもらおう。この国の新しいやり方は酷く歪だな。急な改革は時に大変な騒ぎになる。それこそ国を傾けてしまうような。成し遂げるには余程のカリスマをもつ先導者か、国民から信頼されるような賢王であるかなどが挙げられるが。……ふっ、どうしても貴殿らがそうであるとは思えないな」
俺は国もないし、小さな町というより城しかなかったから分からないけど。
レイオンの伝えたい事は理解できる。
要するに小物だと、そう言っているのだろう。
同意、俺は完璧同意してますよ。
「魔王風情が、図に乗るなよ……!」
ハイシュバルが立ち上がり、爽やかだった声と顔に怒りを帯びてレイオンに詰め寄ろうとする。
いきなりキレる分かりやすい反応をする。
もう既に腰の剣を抜きかけている所から察するに、プライドはこの世界のどの山よりも高いのだろう。
「おい、手出すのは違うだろ。正論言われたのがそんなに嫌だったか? 人を見下す奴なんて小物って言われても仕方ないだろ?」
「ははっ! ……七位ならこの場で瞬殺出来るな。 アビー様、良いですか?」
カッチーンときた。
俺はどうしてもこのタイプとは反りが合わない。
あまり強さアピールをするな。
弱く見えるぞ……!
何かの書物で見た台詞を心の中で唱える。
「どんだけ思考停止なんですかね。正論言われたらキレる病気か何かなのか?」
「この僕が病気だと? お前、絶対殺してやる……!」
「また殺す、ね。こんな奴勇者じゃなくて、単なる魔物以下だな。それただの力がある者が言うともはや暴力だからね。……やだー超怖いんですけど」
煽る俺と、怒るハイシュバル。
それを止めたのは意外や意外、アビーだった。
「止めておきない、ハイシュバル。……良いわナイラ。そこまで言うのなら、もう聖戦しかないでしょう。それがこの国の決まりでしたよね」
「そのつもりです。その為に闇野様たちに力を借りたのですから。父の為にも、そしてこの国の将来の為にも。この国をただ支配したいだけの貴女には負けるつもりはありませんから」
ナイラ様は立ち上がり、堂々と宣戦布告した。




