五話 ダメージ移動
俺たちはマモンの家で王女の話をしばらく聞いた。
対立しているのは何も第一王女と第二王女だけではない。
魔物と勇者もである。
この国は今や魔物が多く、勇者や冒険者は住みにくい土地になった。
元は人の国として存在していたこの国で、いつしか魔物が生活を営み始め、今に至る。
その状況に不満を持つ者もいるということだ。
第一王女の目的は一つ。
国の繁栄における、魔物の管理と勇者の斡旋。
そうする事で、強国として立ち上がろうというものだった。
けれど、実際の内容は違う。
第一王女は昔から魔物が嫌いで、いつしかこの国から消えて欲しいと願い、常に勇者を傍らに置き決して魔物を側に置かない。
そこから導き出されるのは、完全なる魔物の国からの脱却と、男の世継ぎがいないこの国の実権を握ること。
一方で第二王女の目的は正反対。
魔物と共存している今この状況を保ち続ける事だった。
いつしか二人は反対の未来を思い描き、その道を歩んで行く。
第一王女は勝手に動き出した魔王を逆手にとり、魔物の殲滅ではなく、今一度の魔物の管理を唱え動き始めた。
このままでは必ず魔物は滅ぼされてしまう。
そう考えた第二王女は、常々相談していたマモンからその勝手に動き出した魔王達が到着したと連絡を受けて、ここまで兵も連れずに走ってきたらしい。
もしここに俺たちが寄らなければ、探してでも頼み込んでいた、との事だった。
全容は掴めた。
俺たちの仕事は実に簡単だ。
第一王女の言う管理されない魔王達が第二王女を守れば良い。
これだけで第一王女は大義名分を大幅に失うだろう。
勿論、事態はそう簡単に進むとは思えない。
『色』の襲撃や、何だったら魔物組合側の魔王なんかが現れてもおかしくないはずだ。
おまけに勇者を連れていると、……ここは少し考えなければいけないな。
俺はぼうと考えながら視線を宙に泳がせる。
「闇野様。このまま城に来てもらえませんか? 客として、そして騎士としてあなた達を紹介したいのです」
正直騎士はやめてほしい。
そんな崇高な人物でもなんでもないのだから。
「闇野世界、今すぐ行くの。姫様は城内では正直孤立しているの。唯一、姫様の味方でいるのは執事のヴァンぐらいだし、大して役にも立たないのだから」
「マモン! ヴァンの淹れるお茶はおいしいのですよ」
「えらく手荒な歓迎だな、おい」
城へ入ろうとするが、二人の兵士がその行く手を妨げる。
それもそのはずで。
どうやらもう既に、ナイラ様の行動は読まれていたらしかった。
槍を構えて先へ行かせぬと息を巻き、俺たちを睨んでいる。
「何なのかしら。ここを吹き飛ばして先へ進んで良いのだけれど」
アナシスは堂々巡りになるそのやりとりに嫌気がさしたらしく、こめかみをひくつかせる。
「黙れ! 飢え狂った魔物め! ……姫様、すぐにおさがりください。言っておきますが、こいつらは魔王ですよ。本当に危険なのです。 どこで何にを考えているか分からない、この国に害をなす者です!」
「いいえ、下がるのはそちらです。このお方達は私の客人、いえ私の騎士なのですから。私が自分の目で確認し、そして認めた。おかしな話でしょうか。……不自然なくらい食い下がりますね? この方々に魔王がいると何故分かったのです!」
ナイラ様はギロリと睨みを利かし、二人の兵士を一喝する。
「くっ……姫様はこいつらに洗脳でもされてるのですか」
まだ食いさがる兵士。
まぁ気持ちは分からないでもない。
いきなり自分たちの姫が魔王連れてきたら、そうなるよなあ。
でも洗脳って……それは横暴だ。
どったかと言えば、姫の動向を観察してる方が気になるけどな。
「あのなぁ、そんなん出来る訳ないだろうが! 悪いけど、通してもらうぞ。俺たちも暇でこんな事やってるんじゃねーんだ」
「止まれ! それ以上進めばこの槍でお前を貫く!」
貫く、か。
その安い挑発に乗ってやるよ。
本気で対峙してるのか、それを確かめてやる。
「やってみろよ」
俺は槍を構える兵に向かって、歩いていく。
「止まれ! 本当に、本気で突き刺すぞ!」
「やってみろって言ってんだろ。それとも何だ、それ言えば俺たちが止まると思ってんのか。なぁ、お前ら俺たちが本当にただの一般人ならどうする? 責任取れんるんだな?」
変な話だ。
こいつらはどうして俺たちが、魔王だと分かるのだろうか。
どうしてそれが嘘かもしれないと思わないのだろうか。
……第一王女という強い権力には、半信半疑な事でさえ確定させる力があるらしい。
「門兵! 良いからその槍を収めなさい! 私たちはただ城へ入りたいだけです」
兵士はもう姫の言葉を聞いていない。
腰低く槍を構えて俺を見る。
「っらああああ!!」
その槍をグッと引き、俺の腹を目掛けてその槍を穿った。
「きゃあああッ!!」
城前に響く、ナイラ様の声。
その声は辺りに響く。
「……こいつ本当に馬鹿なの?」
「カレンと同意見ね。私もここまで腹が立ったのは久しぶりよ」
動こうとする後ろのメンバーを手で制し、俺は穿った兵士を鋭く見つめる。
……いい加減に腹が立ってきた。
怯えから手に力が入らなかったのか、槍の傷はそこまで深くない。
痛いのは勿論だが、何より会って何分とない人を悪と勝手にみなして平気で殺そうとする兵士に反吐がでる。
一番ムカッ腹になんのは、そこに自分の意思がない事だ。
俺だってこいつらが本気の自分の意思で俺を殺そうとするならまだ分かる。
けれど槍に込められた力から、どうしてもそれは感じられなかった。
引き抜かれた槍を確認して、俺は腹を抑える事もなく痛みと怒りを確認する。
「……それ相応の覚悟が、ッ……あるんだろうな、お前」
徐々に溢れる血、そんな俺の姿を後ろのメンバーはどんな風に見ているのだろうか。
アナシスなんかこの城ごと木っ端微塵にしてしまいそうだな。
俺は視線だけは逸らさずに、槍を落とした兵をギロリと睨む。
あるのは貫いてしまった後悔と、動く敵に対しての恐れだけだろう。
「何で、こいつ! 動い、て!」
血に濡れた槍を捨て、一歩また一歩後退する。
「逃げん、なよ」
どたんと、腰を抜かし地に打ち付ける。
もう一人の兵も言葉はなく、ただ怯えているように見えた。
「返す、わ」
右手で兵士の肩に触れ、ダメージ移動を行う。
「ぐ、ギャォアああああ! 痛い痛い痛い! 助けて、助けて下さい!」
ダメージを返された兵士。
その体の痛みから逃げる様に動き、大声で助けを乞い小刻みに震えていた。
再び兵士の引き受けるべきか、少し迷うがここでこの兵士が暴れ回れば印象はより悪くなる。
……いや既に底辺だろうけど。
何より俺も兵士を殺すつもりはない。
「……しゃーねぇな。……ッと」
痛み苦しむ兵士のダメージを再び引き受ける。
スキルのせいで三倍のダメージを引き受けて更に三倍。
計九倍の痛み。
それは一瞬の痛みだが、激痛に死にたくなる。
痛みに慣れるのは不可能だが、始めに比べればだいぶ感覚は狂ってるだろう。
門の壁にダメージを逃して、荒くなった自分の呼吸を落ち着ける。
「通るぞ、良いな」
「ば、化物……!」
口の減らない奴め。
まぁ、その度胸は結構好きだけど。
痛みがなくなったが動けない兵士と、それをただ見つめるだけの兵士。
二人の兵士は今度は俺たちを止める事もなく、そのまま城内へと俺たちは向かった。




