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三話 ちびっ子白衣と姫様

 レイオンが会いたいと言った相手は一言で例えるなら『最悪』これに尽きた。


「闇野世界! そんな目でこっちを見ないでなの!」


 俺は変な液体かき混ぜてるから、そっちは見てねえ。


「闇野世界! レイオンに話しかけないでなの!」


 そもそもレイオンはここに居ないし、話しかけてねえ。


「闇野世界! 絨毯を汚さないでなの!」


 何も落としてないし、絨毯は汚してねえ。




「何なの! このちびっ子魔法使いは! いきなり俺を目の敵にしてない? 初見でここまで姑みたいにいびられるの流石に初めてなんだけど!」


 レイオンが会いたいと言っていたのは、この国有数の魔法薬学の先生だった。

 緑ががったショートヘアに、似合わない白衣。

 星の形のフラスコみたいな物を手に俺の周りをくるくると歩き回る。

 身長は百四十センチぐらいだろうか、ちょろちょろと後ろからあれやれ、これやれと俺に指示を飛ばす。


「闇野世界、かき混ぜる手を止めない」


 今回は手を止めてました。

 ごめんなさい。

 じゃなくて! 何で俺以外の奴らは部屋に案内されてお茶だされてもてなされてるの?

 俺はここでずっと変な色の葉っぱをちぎらされたり、すり潰す役目を担ったり、かき混ぜたり。

 怖い、この子怖い!


「なぁマモン。許してくれよ、俺もお茶飲みたいんだが」


 ちびっ子白衣、名はマモン。

 手に似合わないでかい本を抱えながら、それはダメだと首を振る。


「レイオンとはどういう関係なの?」


「友達だ」


「嘘よ! レイオンは孤高の王女騎士。万が一にも友達なんてありえないの」


 何で否定から入るんだよ。

 確かにあいつ友達少ないけど。


「あっそ。あーあ、何で俺一人で労働してんだろ。お前バイト代払えよ」


「バイト代? 賃金のことなの?」


「そうだ、賃金。かれこれ二時間は働いてるぞ」


 マモンは時々部屋に案内したレイオン達とお話ししてるっていうのに。

 こんなは不当だ、許せない!


「賃金はあげられないけど、良いものをあげるわ」


「おい、まさか賃金じゃなくて物かよ。許せねえ、ストライキだぞ」


「名誉をあげる。だから黙って! もう少ししたら来るの」


 ……名誉? 来る? 何言ってやがる。

 丁度その時、木の扉をコンコンと叩く乾いた音がした。


「はい、どうぞ。お入り下さい姫様」


 あー薬買いに、姫? ……姫だと?


「マモン、入りますよ」


「はい姫様、こちらがお話しした闇野世界です」


 ふわふわしてる綿菓子のような柔らかい髪の毛が揺れる。

 藍色の毛は優しげで、姫と呼ばれた女性は目元を細めて俺を見つめる。

 映画でしか見た事のないドレスを着て、ありがとうとマモンに手を振った。


「この方が噂の。初めまして、ここの第二王女 ナイラ・アナです」


 行儀よくスカートを持ち上げ、礼をする。

 なんだ、どうすりゃいい。

 マモンが後ろから挨拶を急かすように、尻を肘で突く。

 分かってるけど、どう挨拶すれば良いんだよ。


「闇野、世界です」


「姫様申し訳ありません。緊張しているようですの」


「気にしてませんよマモン。しかし、こちらが魔物組合がしきりに気にしている魔王様ですか」


 値踏みするような視線は慣れている。

 けれど、これはまた毛色が違う。

 好奇心とか、興味というのが正しいだろう。


「早速ですが、マモンの連絡を受けて飛んできました。……不躾で失礼を承知で。闇野様、お願いがあります」


 藍の姫君は、そう言って俺の手を握った。

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