十四話 赤の色
「お、戻れた」
先ほどの海の階へ戻ってきた。
手にはアルから貰ったネックレスが握られていてそれが夢ではなかったと確信する。
俺はそれを身に付けて、服の下にしまう。
「やーみーのー! よがっだ!」
レイオンが俺見るなり鼻を垂らしながら近付いて来た。
……俺の服で水分を拭うのは辞めて頂きたい。
「ふう、このままだったらこの塔を木っ端微塵にしようと話していた所だったのだけれど」
「またえらく物騒な話だな。ほら、ピンピンしてらあ」
アピールの為に屈伸し、腕をブルンブルンと振るった。
「でな、お前らアル・グレイって知ってるか」
アル・グレイは有名だった。
何でも勇者の中でもと確信強いことで有名らしく、魔眼の勇者といえば彼の名があがるらしい。
「アル・グレイ、か。本当に生きていたとは。俄かに信じられん。……二代前の四位だった魔王はアル・グレイに始末されたしな」
レイオンが穴のあった所を怪訝そうに見ながら、そう事実を教えてくれる。
「多分将来は本になる人よ。周りからは隠遁したとか、雲隠れしたとか言われてるけどね」
「そのアルに言われて分かったのは、勇者にもこの世界を疑ってる奴がいるってこと。んで、魔物組合と別の黒幕がいるんじゃないかって事だ」
何が相手なのか、それは今は伏せておこう。
もし、アルの考えが間違っていたとすれば今ここでそれを言うのは得策ではない。
不要に混乱を生むだけだ。
「世界さんはアルさんにそれを聞いたのですか?」
「いいや、まだ分かってない。とりあえずアルはここで仲間を集めるらしいけど。いずれ顔を合わす機会もあるだろう。今俺たちは魔物組合に集中しよう。こいつらが何かしてるのはほぼ確定だ」
「ふむ、我々は異議なしだ」
レイオンが信頼していると、そう背に手を置いた。
何だか妙にあったかくて、それが嬉しい。
「うっし! ここにはアルがいるしそこまで大きく魔物組合は関わってなさそうだ。さて、ここから出るか! 帰ったらまた聞きこみ再開だな」
初めに預かったボタンを押してリタイアを宣告する。
二面はクリアしたのだから、何かしら貰えるだろう。
到底払った分のお金が返ってくるとは思えないが。
「あれ、世界ちゃんと押したの? 何も起きないわよ」
カレンが心配そうに見つめる。
いや、押したんだけどな。
もう一度強く、みんなの前で見せつけるかのようにボタンを押す。
ボタンはカチリと音がするだけだった。
「ちょっと貸して下さい世界様。……せーのっ!」
え? 待てエクシス!
その力の込め具合ならーー。
「おいこら、何その残骸を捨てようとしてやがる」
思いっきり押し込んだのか、ボタンは部品全てがバラバラになっていた。
「超やべーですね。世界様どうしましょう」
「俺の真似すんな。超やべーけど」
ファンファンと警告らしき音が鳴る。
壊したからか、壊したからなのか?
すいません、弁償しますから。
「今からそれを直そうとしたのだけれど、先にこっちが鳴ってしまったわね」
アナシスがボタンの残骸を見ながら、そう呟いた。
「ふむ、闇野! どうやら、魔物組合の息はかかっていたようだぞ」
指差す先には海を侵食する別の世界。
世界を塗り替える、そんな言葉をイメージさせた。
青から赤へ、世界は変わる。
「やーやー! どうもっす。魔物組合『色』の赤でーす」
まだあどけない少女が、侵食した荒野の世界で笑いながら立っていた。
「どうしてこうも魔物組合って変な喋り方のやつが多いんだ?」
「知らんよ。あの赤なんて奴は見た事も聞いた事もない」
赤みががった髪に、不自然な色の瞳。
色が混ざっていて、特定色をあげにくい。
童話の赤ずきんちゃんのような格好をした少女は俺を見て、手を叩いた。
「いやあ、まさか手配中の七位が引っかかるとは。たはー、たまには塔もやってみるもんですねー。お、旦那ちゃーす!」
「誰が旦那だよ。こちとら一人で生きていくのもひーひー言ってるってのに。嫁なんてあと三十年は要らねえな」
いや、そんな顔で俺見ないで欲しいな。
アナシスの顔、特に超怖い。
「そうですか? もったいない! それにしても……いやあ、たまたま塔に来てて良かったー! 何か最速塗り替えてる変な組がいるって言うんで見に来たんですよー! こりゃ間違いないですね、七位の魔王の闇野世界さんです。……ってなわけで、申し訳ないんですけど死んでもらいますねー」
「それ言われて、はい死にます。なんて、どこの誰が言うんだろうな」
「私を見ないで。死んでくれなんて言われた事ないし、コメントに困るから」
やだー。
カレンさん超冷たーい。
「それにしても豪勢なメンツですねー。四位のレイオン・レッドハートに、二位のアナシス・マジク。大層なスキル使いの闇落ち女勇者に、超エリートな一族の吸血族、おまけに絶滅しかけてる伝説の弓使いの一族エルフまで」
詳しい。
いや、詳しすぎると言うべきか。
俺たちが敵を探るように、向こうだって探るのは当たり前か。
魔王ならまだしも、他のメンバーまで知られてるとなると少し厄介だな。
「何でそんなん知ってんだよ。ずるっ、赤ずる!」
「いいねー旦那。ふざけてるその顔が、苦痛に歪むのが楽しみだよ」
「……ちょっと、さっきから世界君を独占してうるさいのだけれど」
パチリとアナシスが指を鳴らすと、落雷が赤の頭に落ちる。
眩い閃光と、響く雷鳴で目と耳がおかしくなりそうだ。
「あちゃー! こりゃ分が悪い相手ですねー」
あれを躱したのか。
軽口を叩いているが、こいつ速い。
「余所見はいけまんせよ。旦那……!」
「……してねぇよ」
繰り出されるパンチ一発を、俺も躱す。
俺だって伊達に苦労してない。
危機感知能力なら、そこいらのやつにも負けやしねえ!
「カレン!」
「はいはい。……どおぉりゃあああ!!」
男にさえ勝りそうな、厳しい声音を発しながらカレンは避けた俺と空振りした赤の前に瞬間で割って入り、鋭い前蹴りを放った。
「おー怖い怖い」
確かに捉えた、そして今度こそ当たったはず。
そう思っていたが、どうやら簡単にもいかないらしい。
赤ずきんは笑いながら、再び距離をとった。




